
7月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
©LES FILMS VELVET -BUENOS HAIR -FRANCE 3 CINEMA
公式サイト:https://cinema.starcat.co.jp/private-case/
俳優としてイメージを維持し続けるのは容易なことではない。年齢を重ねて容色が変わることもあるだろうし、一度ついたイメージを洗い流すことも難しい。『告発の行方』と『羊たちの沈黙』で2度のアカデミー主演女優賞に輝いた実績を誇るジョディ・フォスターも、その例に漏れない。
そもそも2歳の時よりショービジネス界に入り、マーティン・スコセッシに認められて『アリスの恋』に抜擢されて注目を集める。1976年の『タクシードライバー』でセンセーションを巻き起こし、若手女優としてメジャーな存在となる。
監督としても『リトルマン・テイト』を手がけ、製作にも参加するなど意欲的な軌跡をみせた彼女は『コンタクト』や『アンナと王様』など多彩な作品で存在を主張した。
ただ近年は2021年の『モーリタニアン 黒塗りの記録』が目につく程度で、俳優としての歩みは緩くなったような気がしていた。自分のイメージを守りながら、適した作品を見つけ出すのは大変なことだと思い至った次第。
本作の登場は、だから嬉しかった。アメリカ映画ではなくフランス制作だったのがよかったのか。肩肘の張らないエンターテインメントに仕上がっている。
監督はレベッカ・ズロトヴスキ。『美しき棘』で注目され、『プラネタリウム』ではナタリー・ポートマンとリリー=ローズ・デップを起用するなど、アメリカの女優との相性の良さを証明してみせた。ズロトヴスキは『美しき棘』の制作時にフォスターを起用したかったというが実現しなかった。彼女を起用したいという思いの強さが本作のオファーに現れている。
古くからの友人、アンヌ・ベレストの持ち込んだ脚本を一読するや、監督はフォスターにふさわしいと感じたという。監督自身が手を入れ、デビュー作からのつきあいのガエル・マセの協力のもと完成した脚本はフォスターも納得できるものだった。かくして全編フランス語で貫くフォスターのパフォーマンスを堪能できる仕儀となった。
パリで精神分析医として活動しているアメリカ女性、リリアンは充実した毎日を送ってきた。だが安定した日々は9年にわたって通っていた患者、ポーラの死によって一変する。
故人を偲ぶ会に参加したリリアンだったが、ポーラの夫の敵愾心に満ちた態度、彼女の娘の何かを問いただそうとする口調に不信を抱く。
ポーラの死は事故ではなく殺人ではないか。訝しむものの「守秘義務」があるため、警察に相談もできない。そのうち目が不調になり、眼科医である別れた夫の世話になる。原因を調べるべく、催眠療法を受けるリリアンの周りでは不審な事件が起きる。事件の真相を明らかにすべく、リリアンは真実を明らかにしようとする――。
フォスターのユーモアを内包した演技が作品の魅力をさらに高めている。フランス語を巧みに操り、パリで暮らすアメリカ人の存在感を浮かび上がらせる。何より肩の力の抜けた雰囲気が作品にピッタリとマッチしている。
ズロトヴスキはフォスターの自然体の演技を引き出しつつ、心理サスペンスとして軽やかに疾走する。ミステリーとしての興味で引っ張りながら、フォスターの現在をさりげなく称えている。
なにより嬉しくなるのは共演陣のゴージャスさだ。別れた眼科医の夫に『僕と一緒に幾日か』や『愛を弾く女』などで忘れえぬ演技をみせてくれた名優ダニエル・オートイユ。ポーラの夫には『そして僕は恋をする』をはじめアルノー・デプレシャン作品からフランスを代表する個性派俳優となったマチュー・アマルリックが扮する。
患者のポーラには濱口竜介の『急に具合が悪くなる』で今年のカンヌ国際映画祭の女優賞に輝いたヴィルジニー・エフィラ、『トリコロール/赤の愛』のイレ―ヌ・ジャコブ。さらにはアメリカ・ドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマンまでもが顔を出す。なんともニヤリとさせられるキャスティングではないか。
決して派手ではないが、円熟したフォスターを堪能できるおとな感覚のミステリー。充分に楽しめる仕上がりだ。