『デッドマンズ・ワイヤー』はガス・ヴァン・サントの演出が光る実話サスペンス!

『デッドマンズ・ワイヤー』
7月17日(金)より、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
配給:KADOKAWA
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公式サイト:: https://movies.kadokawa.co.jp/deadmanswire/

 アメリカ・インディペンデント映画を代表する監督と問われると、ガス・ヴァン・サントの名をまず挙げたくなる。1989年の『ドラッグストア・カウボーイ』で注目されて以来。『マイ・プライベート・アイダホ』や『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』や『エレファント』、『ミルク』、『追憶の森』、『ドント・ウォーリー』など、青春期の痛みを扱った多彩な作品群を発表し続けてきた。

 実話もしくは実話を基にした作品を数多く生み出し、リアルな作風を身上にするヴァン・サントは世の中の雰囲気をいち早く感じ取り、映像に焼き付けることに長けている。この監督が息の長い活動をしている所以である。

 本作はヴァン・サントの個性を久々に満喫させてくれる。描かれるのは1977年に起きた人質立てこもり事件だ。

 全財産を不動産ローン会社に騙し取られたと憤怒する男トニー・キリシスが、ローン会社の社長の息子を人質に取り、立てこもりを始める。

 注目すべきは、人質の拘束の仕方だった。自分の首と人質の首をショットガンとワイヤーで固定し、ヘタに動けばショットガンが自動発砲される“デッドマンズ・ワイヤー”という装置を使っていた。彼は同社からの謝罪や補償を訴えた。

 地元警察が身動きを取れないなかで、トニーはローン会社の悪を暴露しようと人気ラジオ番組に電話をかけ、DJを巻き込んで自分の要求を番組で流させた。

 トニーの要求はローン会社社長の謝罪だった。事件が好転する兆しが見えないので、 FBI が出動し、警察は突入の準備を進めた――。

 1977年の実話の映画化なので結果は分かっているはずなのだが、進行とともに、サスペンスが増す。ガス・ヴァン・サントの淡々とした語り口のなかにサスペンスとユーモアを忍ばせ、画面に釘付けにさせる。

 この事件がなぜ現在になって再現されたかといえば、事件に過剰な反応をみせたメディアの暴走である。犯人はラジオの電話出演、現場にメディアを招き入れてTV生中継を要求するなど、自らの言い分を広くアピールする。メディア側も特ダネを見逃すはずもなくある種の共犯関係が犯人とメディアに成立してしまう。メディアの過熱する報道により世論が二分されていく展開はSNS時代の現代にも通ずる。ヴァン・サントがこの題材に惹かれた理由だ。

 脚本を書いたのはオースティン・コロドニー。短編の監督、脚本を書いていた彼はコロナ禍でロサンゼルス動物園で働いたこともある苦労人で、本作が第一線で活動するきっかけとなった。リアルに事実を積み上げていきながら、ユーモアを散りばめるあたりがヴァン・サント好みであったのだろう。

 ヴァン・サント作品とあって介したキャストも個性派が揃っている。主人公のトニー・キリシスには『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』や『ノスフェラトゥ』などで怪演をみせたビル・スカルスガルド、テレビ映画「ストレンジャー・シングス」シリーズのデイカー・モンゴメリー。『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のケイリー・エルウィス。『シンシン/SING SING』のコールマン・ドミンゴ。そして名優アル・パチーノと、豪華絢爛である。

 ガス・ヴァン・サントの円熟した演出が際立つ仕上がり。決して派手ではないが見応えがある。お勧めしたい作品である。