
5月15日(金)より、TOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ 日比谷、109シネマズプレミアム新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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公式サイト:https://happinet-phantom.com/a24/smashingmachine/
実際のアスリートや格闘技で鳴らした存在が、映画界に入ってスターダムにのし上がる。こうした例は決して少なくない。かつて水泳オリンピック金メダル選手がスクリーンに転進してターザン役者として一世を風靡したジョニー・ワイズミューラー、格闘技の世界では武術の截拳道を創始したブルース・リーをはじめとして、本物の存在感を売りに映画の世界で活躍したスターたちは空手のチャック・ノリスやドルフ・ラングレン、高飛び込みのジェイソン・ステイサム、武術のジェット・リー、ドニー・イェン、ボディビルのアーノルド・シュワルツェネッガーなどなど枚挙の暇がない。
なかでも活躍が目覚ましいのがプロレス出身のザ・ロックことドウェイン・ジョンソンだ。リング上で抜群の人気を誇り、2001年の『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』でスコーピオン・キングを演じたのが好評で翌年『スコーピオン・キング』で初の主役を獲得する。
そこからは一気呵成。いくつものアクション映画で主役を重ね、一方で『Be Cool/ビー・クール』ではコミカルなキャラクタ―も引き受ける。もちろん、プロレスで鍛え上げた肉体の迫力は映像にしても圧巻。大ヒットが約束されている『ワイルド・スピード』シリーズに途中参加するや、さらに人気は過熱。自分で制作会社を設立し無双の躍進を続けている。
本作はそうしたドウェイン・ジョンソンが見た目の迫力ではなく、演技力で勝負している。今まで陽気なタフガイを演じてきた彼が、実在の格闘技チャンピオンに扮して、プレッシャー、人間関係の葛藤を巧みに浮かび上がらせる。演じるのは「霊長類ヒト科最強」の異名をとった総合格闘技のマーク・ケアー。彼の栄光の裏にあった葛藤と重圧をドウェイン・ジョンソンがみごとに演じ切る。ケアーの軌跡を描いたHBO放映のドキュメンタリーに感動したジョンソンが奔走して映画化権を獲得。自ら製作も買って出て実現させた。
監督を務めるのはベニー・サフディ。以前は兄ジョシュとサフディ兄弟を名乗ってきたが、兄と袂を分かち本作が初長編監督作となる(ちなみに兄のジョシュは『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』を監督したことが記憶に新しい)。
ジョンソンから誘われたベニー・サフディはとことんリアルにひとりの男の軌跡を紡ぎ出す。誠実な語り口にヴェネチア国際映画祭は本作に銀獅子賞(監督賞)を授けた。
もちろん、本作の最大の功労者はドウェイン。ジョンソンである。ケアーに近づけるため特殊メイクを施し、リングで暴れまくった上に私生活の喜怒哀楽を表現しなければならない。彼にとっては最大の試練をみごとにクリアしたかたち。俳優としてひとつ高みに上がったといえるだろう。
共演は『オッペンハイマー』でさらに円熟味を増したエミリー・ブラント。ケアーの活動の場が日本が多かったもので大沢たかお、石井慧、光浦靖子、布袋寅泰などの顔も見受けられる。
1997年に総合格闘技デビューして以降、マーク・ケアーは無敗のまま頂点へと駆け上がった。UFCでの連覇を経て、日本のPRIDEでも快進撃を見せると「霊長類ヒト科最強の男」の異名で恐れられる存在となる。
だが勝利を重ねるにつれて、重圧は彼の心を静かに浸食していった。同棲する恋人ドーンとの関係も次第に悪化していき、鎮痛剤への依存を深めていく。
初めての敗北を喫した“最強の男”は、自らの弱さに向き合い、人生の再起を賭けてリングに挑むことを決意する――。
総合格闘技が日本の地上波で放映され、多くの人々が熱狂していた時期があったと思い出す。日本人のイベント企画力の強さも大したものだと思うが、そのイベントに踊らされたアスリートも少なくなかったと思い至る。ドウェイン・ジョンソンは特殊メイクのせいで、いつもの印象的な貌ではないが、次第に惹きこまれる。プレッシャーから逃れるために鎮痛剤依存になるパターン、それによって愛人との仲も怪しくなる展開も決して目新しくはないが、ジョンソン、ブラントの牽引力で見せ切ってしまう。ジョンソンもブラントという実力派を得て、正解だった。なによりもリングに立つ姿はさすがに迫力十分だ。
ドウェイン・ジョンソンが演技に賭けた作品。一見の価値はあるといっておこう。