サンキュー、チャック』はスティーヴン・キングのエモーショナルな人間賛歌!

『サンキュー、チャック』
5月1日(金)より、TOHOシネマズ日本橋、丸の内ピカデリー、109シネマズプレミアム新宿、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ギャガ★、松竹
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公式サイト:https://gaga.ne.jp/thankyou_chuck/

 2024年に作家生活50周年を迎えたスティーヴン・キングは、エンターテインメントに大きな足跡を刻む巨匠である。膨大な数に及ぶ傑作小説のみならず、それを基に映像化された作品群の数々がいかに私たちの心に焼き付いているか。たとえば『キャリー』、『シャイニング』、『スタンド・バイ・ミー』、『ショーシャンクの空に』、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』などなど枚挙の暇がない。

 キングはホラーを軸としつつ、惹きつけてやまないストーリーテリング、巧みな作劇術を駆使して最後まで一気に読者を引っ張る。まことに秀でた存在だ。必然的に映像化作品も膨大な数に及び、仕上がり的に玉石混交の趣だが、みる者を惹きこむだけの魅力を誇っている。

 本作は2020年に発表した短編小説「チャックの数奇な人生 イフ・イット・ブリーズ」の映画化。キングの得意な「恐怖」の要素を押し出しながら、その奥に希望と愛を浮かび上がらせる。この原作に強く魅了されたのはマイク・フラナガン。今までも『ジェラルドのゲーム』や『ドクター・スリープ』など、キングの原作を手がけてきたフラナガンは、たまたまコロナ禍に原作を読み、世界の終わりから始まるストーリーに魅了されたのだという。彼は直ちに原作者にメールを送り映画化を熱望した。

 フラナガンの希望が叶ったのは間をおいてのことだったが、監督自ら脚色にあたり、恐怖の奥に愛と希望が浮かび上がる、自らのキング観を反映させたエモーショナルな展開に仕上げた。

 映画は世界の終わりから幕を開ける。未曾有の災害が襲い掛かり、すべての通信手段が遮断されてしまった。だが、突如、街頭広告、テレビから「チャールズ・クランツに感謝します。素晴らしい39年間に、ありがとう、チャック」のコピーが流れる。

 世界は成す術もなく終わりを待つ。チャールズ・クランツの正体を求めて、映画はチャールズの最も幸せな時期に遡る。

 チャールズは会議の合間に一休みをしている。午後のひととき、彼は華麗なるダンスを披露することになる。陽光きらめく広場で、パフォーマーの若い女性を相手に踊る。活き活きとして、喜びの時間が永遠に続くように思われる。

 そして時間はさらに遡り、チャールズの子供時代のエピソードが描かれていく。ここに至ってチャールズの生涯の哀歓が明らかになる――。

 確かに冒頭から終末観漂う滑り出しでサスペンスを煽り、どのような展開になるかと、画面にくぎ付けとなる。さらにチャールズ・クランツを称えるという不気味な広告がさらに恐怖を倍加させる。

 こんな滑り出しでいいのか。そんな思いを抱かせるが、続く映像が打って変わってなんともハッピーなもの。チャールズ・クランツがパフォーマーの女の子と華麗にダンスを繰り広げる。軽やかにステップを踏み、周囲を惹きつける。10分に及ぶ、このシーンが映画の雰囲気をがらりと変える(このダンスシ―ンの振り付けは『ラ・ラ・ランド』で一躍注目されたマンディ・ム―ア)。

 このチャールズ人生最高の時を経て、今度はチャールズの子供時代のエピソードに転じる。ここに至って本作の構造が明らかになる。人が死ねば、その死に方はともあれ彼の世界は終わりを迎える。人生を逆回転させればこういう形になるのか。人は終わりが必ず来るのだから、生きている間は希望を持ち続けること。本作は温もりをもって語り掛ける。スティーヴン・キングも80歳を間近にして、枯れて諦観の境地に達したか。

 出演者ではチャールズに扮したトム・ヒドルストンが圧倒的に光る。華麗な踊りで観客を魅惑してみせる。共演も『風をつかまえた少年』では監督も務めたキウェテル・イジョフォー、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのカレン・ギラン、『ワンダー、君は太陽』のジェイコブ・トレンブレイ、加えてマーク・ハミルまでキャスティングも充実している。

 見終わったときに、自らの人生に思いを馳せたくなる。果たして最良の時はあったのだろうか。