
4月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、
新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:ファインフィルムズ
© Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023
公式サイト:https://oldoak-movie.com/
英国が誇る巨匠、ケン・ローチは1968年の『夜空に星のあるように』以来、着実に作品を発表している。
1936年生まれというからまもなく90歳を迎えるのか。途中1970年代から89年代にかけて不遇の時代があったが、常に社会的な視点を持ち、労働者階級に寄り添った作品を発表。近年は移民の問題も加えて、庶民に切実な題材を手がけ続けている。2006年には『麦の穂をゆらす風』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いたことは記憶に新しい。
近年も『私は、ダニエル・ブレイク』(2016)や『家族を想うとき』(2019)など着実に作品を送り出している。本作は前2作に続く“イギリス北東部3部作”の最終章と位置付けられている。
イングランド北部にある炭鉱の町にある、「オールド・オーク」は最後に残ったパブとして住民たちから親しまれてきた。
活気に溢れた時代は30年も前、現在は町全体が厳しい状況に陥っている。店主のT・J・バランタインは苦労を重ねて経営を維持していた。
しかし町がシリア難民を受け入れはじめたことで、安らぎの場所であるパブが、居場所を争う場へと変貌してしまう。古くからの町民が居座る場と化した店の先行きに頭を抱えるT・Jだったが、ある日、カメラを携えたシリアの女性ヤラと出会ったことで考え方に大きな変化が起きる――。
庶民の立場に寄り添いながら、英国に起きる様々な問題に関して誠実に提起をするローチの姿勢は本作でもいささかも変わっていない。脚本は『カルラの歌』で、ケン・ローチと初タッグを組んで以来。数々の作品で名コラボレーションぶりを発揮したポール・ラヴァーティ。英国に蔓延する移民排斥の声、分断の現実を受け止めながら、それでも希望に満ちた幕切れを用意したあたりに、ケン・ローチの温もりを感じさせる。
実際、移民問題は英国でも深刻な社会問題となっており、ローチは最初の難民が到着した2016年に舞台を設定し、難民問題のボタンの掛け違いがどのように起きたか、互いの思いやりの欠如、理解し合わないことから起きた摩擦を静かに考察していく。この日本でも他人事ではない。
ローチの演出は細やかで誠実。パブの親父、シリア難民の友情に至る過程を細やかに紡ぐ。グレイの色合いの街で懸命に日
々を送る人々。それは土着の労働者階級も難民たちも変わらない。互いを理解し、思いやる姿勢が必要だと、年輪を重ねた匠は語りかけてくれる。日本人も耳を傾けるべきではないかな。
キャスティングもリアルさを重んじている。まず『わたしは、ダニエル。ブレイク』にも起用されたデイヴ・ターナーがオーディションを経て選ばれ、シリアのゴラン高原出身のエブラ・マリがこちらもオーディションを通して抜擢されている。
この他、クレア・ロッジャーソン、トレヴァー・フォックスをはじめ、ローチ作品ゆかりの人もオーディションで起用された。
ケン・ローチにとっては最後の作品になるかもしれない。決して派手な作品ではないが、心に沁みいる仕上がり。一見をお勧めしたい。