『クリード チャンプを継ぐ男』は、『ロッキー』シリーズの魂を受け継いだ、熱いボクシング映画。

『クリード チャンプを継ぐ男』
12月23日(祝・水)より、新宿ピカデリー・丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
公式サイト:http://www.creedmovie.jp

 

 1976年に登場した『ロッキー』は、アメリカ映画史に大きな足跡を残したと言える。それまで無名の俳優だったシルヴェスター・スタローンの書いた脚本をもとに、低予算で製作された作品ではあったが、世界的にヒットを記録。スタローンをスターダムに導くとともに、アカデミー賞作品賞と監督賞を獲得することとなった。
 30歳を過ぎたボクサー、ロッキーが、チャンピオンの気まぐれから訪れたチャンスをつかみ善戦する。描かれるのは、誰にでもチャンスは訪れると謳うアメリカンドリーム。ロッキーとスタローンの軌跡を重ね合わせ、スタローンはアメリカンドリームの具現者として人気を集めることになった。
『ロッキー』はシリーズとなり、フィラデルフィア庶民の代表といったポジションから、真のチャンピオンとなり、さらにはアメリカを牽引する愛国者になっていった。
 シリーズは2006年の第6弾『ロッキー・ザ・ファイナル』まで続いた。もはやロッキーは引退して、小さなイタリアン・レストラン“エイドリアンズ”を経営しているのだが、ボクシングの夢を断ちがたく、降ってわいた現役最強ボクサーと戦うことになる。第1作の気分に立ち戻った幕の引き方ではあった。

 本作は『ロッキー』シリーズを見て育ったという、監督ライアン・クーグラーの情熱の賜物。『ロッキー』第1作の精神を継いだスピンオフである。
 クーグラーはロッキーと戦い、盟友となったアポロ・クリードの息子のストーリーをスタローンに持ち込み、スタローンを説得して承諾を得た。長編第1作『フルートベール駅で』が高い評価を受けたクーグラーは、自らの原案をもとに、新進のアーロン・コヴィントンとともに脚色。パワフルでスリリングなファイト・シーンを織り込みながら、『ロッキー』の感動と興奮を現代に蘇らせるという難事をみごとに果たしてみせた。
 もちろん、スタローンが出演することはいうまでもない。ここでは老境の悲哀を滲ませつつ、親友の息子を一流のボクサーに育て上げるロッキーをみごとに演じきっている。アカデミー・ノミネーションの声が挙がるほどの名演である。
 アポロの息子アドニスを演じるのは『フルートベール駅で』や『ファンタスティック・フォー』などで注目著しいマイケル・B・ジョーダン。加えて『グローリー/明日への行進』のテッサ・トンプソンが相手役を務め、『フランキー&アリス』のフィリシア・ラシャド、さらにアンソニー・ベリュー、アンドレ・ウォード、ガブリエル・ロサドという本物のプロボクサーに演技をさせている。試合のシーンの凄まじい迫力も納得である。

 アドニスは生まれる前に父が死に、母も亡くなって施設に預けられていたが、ある日、見知らぬ女性が施設を訪れ、アドニスの父が伝説のボクサー、アポロ・クリードであると伝える。味氏らに女性メアリー・アンはアポロ・クリード夫人。夫が他の女性に産ませた子を連れ帰った。
 成長したアドニスは大学でも高い成績を収めていたが、ボクシングに対する思いは強まる一方。メアリー・アンの反対を押し切って、フィラデルフィアに向かう。そこにはアポロと死闘を演じた後に親友となったロッキー・バルボアが住んでいた。
 ロッキーは妻に先立たれ、年齢とともに孤独は募る一方、レストランを営みながら寂しく日々を送っていた。そこにアドニスが現れ、コーチになってくれるように懇願される。最初は取り合わなかったロッキーだったが、アドニスがアポロの子と知るや、彼に持てる技術を授けることを決心する。
 逸るアドニスを諭し、基礎から教え込むロッキー。アドニスは才能を発揮し、ロッキーのコーチと相まって、無敗の世界チャンピオンがタイトルマッチの相手に抜擢する。アドニスは父の名を汚したくないという重圧に苛まれてナーバスとなるなか、ロッキーの身体に異変が走った――。

 本当の父の温もりを知らずに育った若者が、父の生業としたボクシングで頭角を現し、好敵手だった男のコーチのもとで成長する。ストーリーラインはまさに王道、爽やかな青春成長物語に仕上がっている。『ロッキー』第1作のような“アメリカンドリームの謳歌”という側面はないが、よりエモーショナルな父と子の絆が強く打ちだされている。アドニスは味わったことのない父親の感触を、コーチであるロッキーに見出していくのだ。いかにも庶民的な佇まいのフィラデルフィアに焼きつく情の機微、だ。
 もちろん、クーグラーのリアルな眼差しは試合のシーンにも活かされている。アドニスの相手がことごとく強そうで繰り出すパンチも尋常ではない。本物のボクサーを起用した効果がちょっとした仕草にも生きている。もちろん殺陣はあるわけだが、パンチの迫力はこれまでのボクシング映画のなかでも白眉である。
 クーグラーはクライマックスのタイトルマッチでも『ロッキー』シリーズへのオマージュを忘れない。甲乙つけがたいなかで、試合は進んでいく。フィラデルフィアの街並みをドキュメンタルに切り取るなかでも『ロッキー』でおなじみの疾走シーンが取り入れられている。『ロッキー』に熱狂した世代にとっては応えられない嬉しさである。本作で、クーグラーはエンターテインメントを生みだす奥義は掴んだといえるだろう。

 出演者では前述のようにスタローンが渋い味わいを披露しているが、アドニス役のB・ジョーダンが魅力的である。アスリートの肉体になっていく過程を披露しつつ、父に対する思いと重圧という交錯する感情に襲われるキャラクターを演じきる。未熟な若者から真のボクサーになる姿をきっちりと表現している。次代を担うアフリカ系俳優ナンバーワンである。

 父と子的な情愛が横溢し、試合の超ド級の迫力に熱くなる。最後に感動まで用意されている。これは正月にふさわしい、老若男女にアピールするエンターテインメントだ!