『バクマン。』は友情・努力・勝利を謳いあげた、溌剌とした青春快作!

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『バグマン。』
10月3日(土)より、全国東宝系にてロードショー
配給:東宝
©2015映画「バクマン。」製作委員会
公式サイト:http://www.bakuman-movie.com/

 

 それがどんなジャンルであろうが、成功を目指して切磋琢磨する人間の姿には惹きつけられるものがある。分かりやすいのが、頂点を目指すアスリートの軌跡だ。『ロッキー』の昔から、市井感覚のキャラクターが懸命に努力して自らのアイデンティティを掴み取る展開は、素直に観客の心に作用する。スポーツやショービジネスを題材にした作品が多いのは、キャラクターの努力がみえやすいこと、映像で表現しやすいことに根ざしているわけだが、近年、作品の数が多すぎて、差別化することが難しくなっている。
 本作が注目に値するのは、成功に向かって疾走するヒーローたちが夢を抱えた漫画家というところにある。本作では漫画家になるための奮闘を、アスリートを描くように溌剌と紡いで、爽やかな感動をもたらしてくれるのだ。
 漫画家になるまでの軌跡を描くというと、これまでもドラマにもなった藤子不二雄Ⓐの「まんが道」が有名だが、本作の原作も漫画ファンには広く知られている。「DEATH NOTE」の原作者・大場つぐみと作画・小畑健が、2008年から2012年にかけて週刊少年ジャンプ誌に連載した同名大人気漫画の映画化。漫画家になって、週刊少年ジャンプのトップを取ることを目標にした、ふたりの高校生の奮闘ぶりがパワフルに綴られている。
 この原作に着目したのはプロデューサーの川村元気。コンビの漫画家の軌跡を、クリエイティヴなバディ映画に仕立てたらどうかと考えたのがはじまりという。原作をアクションとして描ける監督という選択で、起用されたのが『モテキ』や『恋の渦』で話題の大根仁。脚色も担当した大根は膨大な原作のなかからエピソードを厳選し、漫画家という職業をリアルに浮かび上がらせつつ、溌剌として切ない、心に残る青春映画に仕上げてみせた。なにより、机の前でひたすら画を描き続ける漫画家の日常を、思わず惹きこまれるような弾ける映像で表現してみせたのが成功の要因。ひたすら地味なイメージの漫画家を、ダンサーやアスリート並みのアクション、殺陣でヴィヴィッドに表現している。
 週刊少年ジャンプ誌の実際の信条“友情、努力、勝利”を貫いた内容であり、漫画家のクリエイティヴィティをアクションで謳いあげた作品にして、さまざまな漫画家たちの姿を浮き彫りにした青春群像劇だ。
 出演は『るろうに剣心』で鮮やかなアクションを披露した佐藤健に、『桐島、部活やめるってよ』の神木隆之介。ふたりを囲んで『寄生獣』の染谷将太、『渇き。』の小松菜奈、『ソラニン』の桐谷健太、『百円の恋』の新井浩文、連続テレビ小説「あまちゃん」などで個性を発揮している劇団“大人計画”所属の皆川猿時、同じく“大人計画”の脚本家としても知られる宮藤官九郎。さらに『凶悪』の山田孝之に多彩な活動で知られるリリー・フランキーまで、まさに個性派総出演の趣だ。

 流されるだけの高校生活を送っていた真城最高は、クラスメイトの髙木秋人に画力を認められ、一緒に漫画家になろうと誘われる。最初はとりあわなかった最高だったが、心を寄せている女の子で声優を目指している亜豆美保に、「“漫画家”と“声優”、お互いの夢が実現したら結婚する」と口走ってしまい、漫画家の道を志すことになる。
 最高が漫画家になることを躊躇したのは、叔父の川口たろうが週刊少年ジャンプ誌に寄稿していた漫画家で、過労で死んだ記憶がったからだ。
 ふたりは漫画を練り込み、週刊少年ジャンプ編集部に持ち込み、編集者の服部哲に見出されるが、数多くの個性的な漫画家たちがライバルとなる。なかでも同世代で天才と謳われる新妻エイジの存在がふたりの前に立ち塞がる。
 ふたりはまず漫画の目利きであるジャンプ編集部の編集者たち、編集長に選ばれて、連載漫画家の地位を勝ち取らねばならない。さらに連載を勝ち取っても、読者のアンケートで人気を得ねば打ち切りになる。
 まさに人気・実力至上主義の苛酷な世界に身を置いて、ふたりは夢を叶えることができるのか――。

 誇張してあるにせよ、漫画家と編集者のやりとり、つきあいのなかから生まれる絆などは、現実の週刊少年ジャンプ編集部の日常で起きていることという。担当編集者が漫画家側に立って盛り上げることから、アンケート発表に一喜一憂する姿まで、リアルに現実が反映されている。実際の少年ジャンプ編集部にロケを敢行し、さらに編集部自体を再現するなど、集英社、少年ジャンプ編集部も最大限の協力をしている。内容自体が少年ジャンプの讃歌のようなものだから、それも当然か。面白い漫画を掲載するために最大限の努力を払う、志のある編集長、編集者の姿は、出版業界に身を置いたことのある身にとって、ちょいと胸が熱くなる。
 大根監督はさらに漫画家同士の切磋琢磨しあい、ときには助け合う姿もきっちりと描きこむ。自ら漫画好きを公言する監督にとって、この成功譚をストレートに描くことは必然だった。漫画という表現に携わる人間たちの哀歓、試練と葛藤を軽やかに紡いでいて、まことに好感を呼ぶ。
 なによりも、漫画を生み出すことはアクションだという思いのもと、CGやプロジェクション・マッピングなどを駆使した映像の新鮮さには脱帽するばかり。創作は格闘だというイメージで、ふたりがペンを持って躍動している。このアイデアは秀抜である。

 出演者では最高役の佐藤健のナイーブさが好もしいし、秋人役の神木隆之介も今回は控えめなイメージで勝負。きっちりと存在感を漂わせている。
 このふたりに負けず劣らず、共演陣がすばらしい。宮藤官九郎の川口たろうのペーソス漂う風情から、ふてぶてしい新妻エイジ役の染谷将太、いかにも声優を目指しそうなイメージのほんわかした亜豆美保役の小松菜奈、ライバル漫画家役の桐谷健太、新井浩文、皆川猿時もそれぞれ個性全開の快演。いかにも現実にいそうな漫画家キャラクターで、笑いを誘う。加えて山田孝之のおたくっぽい編集者ぶり、非情な貌をしつつ実は血も涙もある編集長役のリリー・フランキーまで、このキャスティングはみごとという他はない。

 漫画家という生業の在り方が分かるばかりか、恋あり、友情あり。青春映画の王道を行く仕上がり。今年の日本映画の十指に入る作品といいたくなる。これはお勧めしたい。