『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は、シュワルツェネッガーの当たり役復活に拍手する痛快編!

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『ターミネーター:新起動/ジェニシス』
7月10日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか3D/2D全国ロードショー
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
© 2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.terminator-movie.jp/

 

 シリーズものは作品を重ねるにつれて設定に縛られる。第1作で登場人物や活躍する世界が決められると、2作目以降は新鮮な筋立てを求めて知恵を絞り、より厳密な設定を課すことになるからだ。ジェームズ・キャメロンが1984年の『ターミネーター』に端を発するシリーズもその轍を踏むことになった。
 第1作ではアーノルド・シュワルツェネッガー扮する未来から来た殺人機械・ターミネーター“T‐800”が1984年のロサンゼルスに出現し、サラ・コナーという女性を抹殺しようとつけ狙う展開だった。2029年には人工知能スカイネット率いる機械軍と人類が激烈な戦いを繰り広げていて、未来で人類を率いる英雄ジョン・コナーが生まれる前に、母親を消してしまおうという理由。このターミネーターの行動を阻止せんとカイル・リーズなる兵士が未来からやってきて、一大死闘が演じられる。ここではさりげなくターミネーターの腕とチップが残っていることが示される。
 第2作はキャメロンによって1991年に登場した。ここでは少年になったジョンに対して、新たに未来から刺客“T‐1000”がやってくるが、かつて刺客だった同型T‐800が今度はジョンを護るために送られてくる設定。シュワルツェネッガーがスーパースターとなって悪役イメージを払拭している。未来を知ってしまったサラがなんとかスカイネットの出現を食い止めんとする試みとともに、ターミネーター同士の死闘が紡がれる。
 生みの親のキャメロンはこの2作でシリーズを止めるつもりだったという。だが大ヒットした前2作を考えると、製作に関わった人間が黙っていない。2003年の『ターミネーター3』は、キャメロンの元パートナーのゲイル・アン・ハードと第2作に参加したマリオ・カサールのプロデュースのもとで完成した。脚本はジョン・D・ブランカトーとマイケル・フェリス、監督はジョナサン・モストウが担当し、ジョン・コナーの青春時代画描かれる。ここでも未来から刺客が来るという設定は変わらず、ターミネーターの新型T‐Ⅹがコナー殺害のために出現し、T‐800に似たT‐850が危機を救う設定。しかし、機械軍との戦争は回避できないストーリーとなっている。
 このあたりからシリーズとして再評価されたか、2008年にテレビシリーズ「ターミネーター サラ・コナーズ・クロニクル」が登場する。こちらは『ターミネーター2』から5年後の1999年よりストーリーがはじまるが、『ターミネーター3』の世界とは異なる展開となっている。こちらはパラレル・ワールドのストーリーと解釈すればいいのか。
 2009年には『ターミネーター4』が製作される。ここで描かれるのは未来世界。機械軍と戦う人類の図式のなか、未来を開く鍵を握る謎の男マーカス・ライトとジョン・コナーの軌跡が紡がれる。シュワルツェネッガーは州知事の業務を全うするため出演せず、監督のマックGもあまり設定に固執せずに、バトル・アクションの痛快さで押し切った。2009年にはこの作品の世界観から生まれたCGアニメーション『ターミネーター サルベーション ザ マシニマ シリーズ』もつくられている。

 さぁ、これだけの数の作品がつくられてきたシリーズでまだ語ることがあるのか――。この素朴な疑問に期待以上の驚きで応えてくれたのが本作である。『シャッターアイランド』の脚本と製作総指揮を手がけ、『アバター』でも製作総指揮にクレジットされていたレータ・カログリディスと、『ドラキュリア』シリーズの脚本と監督で知られるパトリック・ルシエが本作の脚本を担当。カログリディスは本作を引き受けるにあたって、親しいキャメロンに相談。承認をもらうと同時にシュワルツェネッガーを活かすようにアドバイスされたという。
 ふたりが知恵を絞った成果は、ジョン・コナー、サラ・コナー。カイル・リース、ターミネーターは登場し、人類と機械軍との戦いも描かれるが、これまでとはまったく一線を画す展開となっている。本作のプロモーション映像にはキャメロン自身が登場して、「私にとって『ターミネーター』の三作目はこれだ」と魅力を語っているが、なるほど、キャメロンが喜ぶはずだ。オリジナルの軸を護りながら、どんでん返しのように設定が逆転する快感がこのストーリーにはある。
 監督はテレビシリーズ「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」や「ゲーム・オブ・スローンズ」で注目され、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』に起用されたアラン・テイラー。スピーディな語り口を貫き、見せ場ではメリハリを利かせている。
 なにより嬉しいのはターミネーター役でシュワルツェネッガーが帰ってきたことだ。12年ぶりの復帰となるが、現在の彼が演じられるような設定が施されている。
 さらにジョン・コナーには『猿の惑星:新世紀(ライジング)』のジェイソン・クラーク、サラ・コナーには「ゲーム・オブ・スローンズ」で人気を博したエミリア・クラークが抜擢された。カイル・リースには『ダイ・ハード/ラスト・デイ』でマクレーン刑事の息子役に起用されたジェイ・コートニー。さらに韓国からイ・ビョンホン、『セッション』でアカデミー助演男優賞に輝いたJ・K・シモンズも顔を出す。

 2029年、人類は機械軍との戦いに勝利しようとしていた。機械軍は人類のリーダー、ジョン・コナーの存在を消すため、T‐800を1984年に送り込む。サラ・コナーの殺害が目的だ。ジョン・コナーは腹心のカイル・リースを1984年に向かわせる。
 カイルは志願して過去に向かうが、1984年のロサンゼルスに着いたT‐800はかんたんに“老いた”T‐800そっくりの男“守護神”に倒される。しかも、その男と行動をともにするサラ・コナーは何もかも把握していた。そればかりか、この時点ではいるはずのないT‐1000が彼らに襲いかかる。カイルが過去の出来事として把握していた事柄がことごとく覆っていたのだ。
 カイルが訪れた1984年は彼が生きてきた世界とは別のタイムラインで進んでいる。女戦士に成長したサラと“守護神”は人類滅亡の日の引き金となる人工知能“ジェニシス”の起動を阻止するべく戦っていた。カイルはふたりと行動をともにして、人工知能の場所に向かうが、思いもよらない事態が待ち受けていた――。

 ターミネーターは、人間のように年輪を重ねると表面の容姿が老いるように造られているという設定で、シュワルツェネッガーの容貌の変化はクリアしてみせる。このアイデアにキャメロンは喜んだことだろう。しかもこれまでのシリーズで決めこまれた設定(とりわけ1作目と2作目)を維持しているような顔をして、あっさり異なる方向に疾走するのだから痛快だ。詳細は見てのお楽しみながら、思わぬキャラクターの予想もつかない変容に驚かされ、凄まじいクライマックスになだれ込む。まこと新起動といいたくなる気持ちは画面をみているうちに得心できる。
 アメリカでの評価はあまり芳しくないようだが、テイラーの演出は多少、説明不足のきらいはあるものの手堅い。キャメロンには比べるべくもないが、モストウやマックGとは遜色はない気がする。“守護神”とサラの親子愛にも似た感情、カイルとサラのさりげない情、カイルに去来する異世界での自分の家族に対する思いなどがアクション主導のストーリーに散りばめられている。これらはテイラーが得意とする要素だ。

 出演者ではやはりシュワルツェネッガーの魅力が際立つ。短いセンテンスで押し通し、本作ではそこはかとなくユーモアと温もりを表現してみせる。それにしても年輪とともに容姿が変わるターミネーターなんて、誰も思いつかなかった。T‐1000役で日本でも人気のイ・ビョンホンが怪演をみせるが、今さらながらにシュワルツェネッガーの存在感を再認識させられた。

 夏にふさわしい、スケールの大きなSFアクション。シリーズを追いかけてきた人、そうでない人もまずは注目されたい。