『トゥモローランド』はウォルト・ディズニーの思いを継いだ冒険ミステリー

Disney's TOMORROWLAND Frank (George Clooney) Ph: Film Frame ©Disney 2015
『トゥモローランド』
6月6日(土)より、TOHOシネマズ日劇ほか、全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
©2015 Disney Enterprises, inc. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/tomorrowland.html

 

 昨年の『アナと雪の女王』や『マレフィセント』、今年に入って『ベイマックス』、『イントゥ・ザ・ウッド』に『シンデレラ』と、ディズニー作品は快進撃を続けている。常に世代を選ばないエンターテイメントを送り出し、安心して子供に見せられると信頼度も抜群。ヒットした作品はいずれも、これまでのディズニー・エンターテインメントに新たな味付けを加えている点で特筆に値する。このファミリー・ピクチャーの老舗は常に社会の動きに敏感に反応しているのだ。
 本作もまた意欲的なことでは群を抜いている。
 タイトルの“トゥモローランド”は、東京ディズニーランドにもあるエリア名で、故ウォルト・ディズニーがテーマパーク構想のなかで、人々の夢見るような未来世界を体験させる場所としてつくられたものだ。宇宙旅行や科学技術などの先端技術を紹介するエリアということで、たびたび新たなアトラクションが導入されてきているが、本作ではウォルトの発想した“トゥモローランド”への思いと、彼が集めた資料をもとに構築された冒険ミステリーだ。
 1964年、ニューヨークで開催された万国博覧会にディズニーも参加し、有名なアトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」を出品しているが、この時代にディズニーがもっていた未来のイメージを軸にストーリーが膨らまされた。
 本作は、現在、主流となっているネガティヴな未来イメージを取り込みつつ、未来は人間の努力によって明るく変えることができると謳いあげている。このメッセージこそがウォルトのメッセージに他ならない。
 未来を描いた最近の作品は殆どが終末世界となっている。現在の世界の状況を考えれば明るくなりようがないのは自明だが、だからこそ、ディズニー・エンターテインメントはあえて未来に希望が無くなったわけではないとメッセージする。
 この真のイマジネーションが求められる企画を引き受けたのは、『ニューヨーク東8番街の奇跡』の脚本を書き、アニメーション監督として『アイアン・ジャイアント』や『レミーのおいしいレストラン』を手がけ、実写作品では『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』をヒットチャートに送り込んだブラッド・バード。バードはコミックブックのライターでジャーナリストのジェフ・ジェンセン、テレビシリーズ「LOST」や『プロメテウス』、『ワールド・ウォーZ』などで知られるデイモン・リンデロフと組んで、ストーリーを組み上げ、最終的にリンデロフと脚本化した。
 発明家のトーマス・エジソンにニコラ・テスラ、SF作家のジュール・ベルヌ、建築家のギュンター・エッフェルといった未来世界の夢を育んだ先達たちが登場し、“プルス・ウルトラ(もっと先へという意のラテン語)”なる秘密結社の存在も明らかになる展開。まさにバードやリンデロフ、ジェンセンが想像の翼を広げるだけ広げて生み出した、驚愕、怒涛のストーリーなのである。
 出演は『ファミリー・ツリー』や『ゼロ・グラビティ』が記憶に新しいジョージ・クルーニーに、テレビシリーズ「Dr. HOUSE ‐ドクター・ハウス‐」でブレイクしたヒュー・ローリー。さらにテレビシリーズ「シークレット・サークル」に抜擢されて人気を得たブリット・ロバートソン、『スノーホワイト』のラフィー・キャシディなど次代を担いそうな女優たちが選りすぐられている。

 1964年、11歳のフランク・ウォーカーはニューヨーク万国博覧会の発明コンテストに空飛ぶジェットパックを持ち込むが、あえなく落選。だが、謎の美少女アテナからTの文字をあしらったバッジを渡される。少年がディズニーの出品した「イッツ・ア・スモールワールド」に乗ると、バッジの力で秘密の通路に導かれてハイテク都市空間“トゥモローランド”に到達する。
 現代、17歳の少女ケイシー・ニュートンは宇宙への夢を抱き続け、NASAのスペースシャトル計画終了に伴う発射台廃棄作業を妨害し続けていた。常に前向きの彼女は終末論が横行する未来にうんざりし、明るい未来を夢見ていた。そんな彼女が警察に捕まり、釈放されたときに渡された私物のなかにTの文字のバッジが紛れ込んでいた。
 ケイシーがバッジに手を触れたとき、かつてみたこともないヴィジョンに包まれる。銀色の麦畑の先に輝く未来都市があった。その存在を調べようと、コレクターズショップを訪れると、怪しげな店主夫妻にバッジを奪われそうになる。
 この危機を救ったのはアテナだった。ケイシーはアテナがバッジの贈り主であることを知ると、彼女の指示に従ってニューヨーク州のフランク・ウォーカーの家に向かう。
 もはや孤独な初老男になっていたフランクは“トゥモローランド”を追放されていた。フランクだけがトゥモローランド”に行く道を知っている。ケイシーとアテナを追う一団が襲撃するなか、3人は“トゥモローランド”に向かう。
 いくつもの謎が明らかになるとともに、ケイシーは人類の未来の命運を握る冒険に入り
込んでいく――。

 冒頭、フランク少年のエピソードで1960年代の夢のある未来像を示しておいて、一気にケイシーの冒険世界に突入していく。ケイシーの未来を明るくとらえたいと考えるキャラクターは終末的未来を承知した上での志向なので、より現代人が共感しやすい設定。未来を舞台にした作品がどれもこれも荒廃したダークな世界ばかりのなかで、ディズニーはあえて1960年代の未来空間で勝負する。これがかえって新鮮に映るから不思議だ。
 バードの語り口は疾走感に満ちて、予断を許さない。主人公のケイシーが明るく行動的なせいもあるが、随所にユーモアを散りばめながら軽快に紡いでいる。世界はどんどん悪くなっていることを踏まえつつ、それでも希望をもっていたいと念じる。ここにバードのメッセージがある。展開がめまぐるしすぎて、謎のひとつひとつを吟味する時間はないのが残念。あまりアメリカで評判がよくない所以でもあるが、思いは伝わるし、なによりも最後までわくわくさせられる。もっとも幕切れの趣向など、ちょっと引っかかるところもないではないが、それでも充分に楽しい。とりわけエッフェル塔の趣向などは驚嘆させられる。これを映像にしてみせるのがアメリカ映画の勢いなのだ。
 プロダクション・デザインを担当したスコット・チャンプリスは『カウボーイ&エイリアン』や『スター・トレック イントゥ・ザ・ダークネス』などで知られている。チャンプリスはバード、リンデロフと徹底的に討論し、トゥモローランドの外観を構築していった。巨大なセットを組むだけでなく、スペインにのバレンシア芸術科学都市がロケ地に選ぶなどリアリティのある空間に仕上げている。あくまでも現在と繋がっている未来との発想だ。前述した未来を明るくするのは私自身にゆだねられているという発想を補強するものだ。

 初老のフランク役のクルーニーはむしろ脇で支える立場で、ケイシーを演じるロバートソンの溌剌とした魅力と、アテナに扮したキャシディの中世的な美少女ぶりが際立つ。ロバートソンは、実際は25歳、キャシディの方はこの8月で13歳になる。ともに演技もできて、惹きつける容姿の持ち主。今後が注目したくなる逸材といいたくなる。

 ミステリー、冒険、SFなどの要素を散りばめて、ディズニー映画の楽しさを満喫できる。まずは一見に値する作品である。