『ホビット 決戦のゆくえ』は、ピーター・ジャクソンの愛と情熱が込められたファンタジー超大作完結編!

THE HOBBIT: THE BATTLE OF THE FIVE ARMIES
『ホビット 決戦のゆくえ』
12月13日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国ロードショー3D/2D IMAX3D同時公開 HFR3Dも公開(一部劇場にて)
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2014 Warner Bros. Ent. TM Saul Zaentz Co.
公式サイト:http://www.hobbitmovie.jp

 

 ピーター・ジャクソンの心血を注いだ労作『ホビット』3部作がいよいよ完結を迎える。
 考えてみれば、ジャクソンのこの20年間は文字通りJ.R.R.トールキン作品の映像化に費やした日々だった。
 映像化は困難といわれた名作ファンタジー小説「指輪物語」を『ロード・オブ・ザ・リング』3部作にまとめあげた上で同時に撮影するという離れ技で完成させて、それぞれ2001年から2003年まで、毎年公開する手法をとった(日本では2002年から2004年にかけて公開)。作品の素晴らしさは世界中の映画ファンを圧倒し、アメリカ・アカデミー賞では第1作が13部門ノミネーション、第2作が6部門のノミネートと続き、完結編の『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』に至っては作品、監督、脚色を含む11部門にノミネートされ、すべてを受賞するという快挙を成し遂げた。
『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のクオリティで、もはやジャクソンはファンタジー映画のイコン、ニュージーランドの巨匠と呼ばれるようになったが、本人のトールキンへの傾倒はこれで終わらなかった。
 さまざまな経緯の後に「指輪物語」の前日譚的な位置づけの「ホビットの冒険」の映像化を引き受けることになったのだ。しかも、これもまた3部作。第1作『ホビット 思いがけない冒険』が2012年、第2作『ホビット 竜に奪われた王国』が2013年、そして本作がこの12月の登場となった(日本では第2作が今年2月の公開という変則スケジュールだった)。
 この6作品を見て今さらながらに思うのは、ジャクソンのトールキン世界に対する愛の深さである。原作の世界観、意匠をいささかも損ねることなく、それでいてジャクソンの個性をくっきりと映像に焼きつけている。
 故郷ニュージーランドのヴィジュアルインパクトに富んだ風景を十全に活かしながら、特撮工房WETAを設立してVFXやCGを駆使した圧巻の映像を構築してみせる。とりわけ『ホビット』3部作は、ホビットのビルボ・バギンズが竜に奪われたドワーフの国と財宝を取り戻すべく、トーリン率いるドワーフたち、魔法使いのガンドルフとともに冒険の旅に出る展開。原作自体が子供に向けて書かれたというだけあって、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作よりもエンターテインメント色が強くなっている。
 しかも、イアン・マッケラン扮するガンドルフやオーランド・ブルーム扮するレゴラス、ケイト・ブランシェット扮するガラドリエル、クリストファー・リー扮するサルマンなどなど、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作に登場したキャラクターたちが活躍するのもファンには楽しい限り。
 本作で血沸き肉躍る冒険のストーリーが終わるわけだが、前日譚とあって、ちゃんと『ロード・オブ・ザ・リング』につながる結末になっているあたりが心憎い。SF・ファンタジーのファンのみならず、映画好きの心を鷲掴みにする仕上がり。3D映像のクオリティの凄さも含め、まさに感動の映像体験が用意されている

 バギンズとトーリンたちは、竜のスマウグに奪われた王国を、エルフや湖の町の人間たちの協力で奪還に成功する。だが、竜は湖の町を襲撃。町は火の海と化す。この危機に得意の弓で敢然と立ち向かったのは人間のバルドだった。
 王国で黄金と財宝を取り戻したトーリンはその魔力に取り憑かれてしまう。町を焼き払われたバルドたち人間は王国に向かい、トーリンが約束した財宝の分配を要求する。エルフの王スランドゥイルも軍隊を引き連れて、財宝の分け前を求めて王国に向かっていた。
 しかし、トーリンは要求を拒否する。彼は北方のドワーフの長を呼び寄せ、財宝の独占を図る。友トーリンの変わりように心を痛めたバギンズは、トーリン一族の家宝アーケン石を秘かにバルドに手渡し、戦争を拒否しようとするが、怒りに燃えたトーリンはバギンズを追いだし、戦争状態を宣言する。
 だが、その刹那、冥王サウロンが放った、邪悪なオークの大軍が突如、現れて、戦いを仕掛けてくる。凄まじい敵の奇襲に、エルフ、人間、ドワーフは結束するか、滅亡するかの判断を迫られる――。

 冒頭の湖の町の大火災、竜の襲撃にはじまって、まさにスペクタクルのつるべ打ち。いささかも緩むことなく、クライマックスまで疾走する。しかも派手な戦いの間に、ドワーフのキーリとエルフのタウリエルの愛、バルドと子供たちの絆、バギンズとトーリンの友情をはじめとする、胸の熱くなるエピソードがきっちりと織り込まれている。
 さらにトーリンが黄金の魔力に我を忘れる設定に、拝金主義を至上のものとする現在の世界の風潮に対する風刺を込められる。骨太な語り口のなかに、エンターテインメントのすべての要素が織り込まれているのだ。脚本を担当したジャクソン、フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、ギレルモ・デル・トロに拍手を送りたくなると同時に、ここまでの映像を描き切ったジャクソンの力技にただ脱帽するのみである。
 本作はとにかく大画面で体験することが必須だ。細部にまで神経の行き届いたモブ・シーンの息を呑む迫力。これでもか、これでもかと綴られる登場キャラクターの軌跡のなかに、人間の業が浮かび上がってくる。円熟を極めたジャクソンの思いが映像の随所でスパークし、さらに大きな流れとなってクライマックスに向かう。エンドマークが出た後は、ひたすら余韻に浸るのみである。

 世界中から集められたキャストもみごとにキャラクターになりきっている。主人公バギンズ役の英国出身、マーティン・フリーマンの善良な容貌もいいし、ウェールズ出身でバルドを演じたルーク・エヴァンスは『ドラキュラZERO』に続いてさっそうとしたところをみせるし、カナダ人でテレビシリーズ「LOST」で注目されたエヴァンジェリン・リリーはタウリエルを演じて恋する哀しみを演じきる。
 さらにトーリン役のリチャード・アーミティッジは『イントゥ・ザ・ストーム』の主演が記憶に新しいが、本作では魔力に取り憑かれ乱心するキャラクターを熱演。人気のベネディクト・カンバーバッチもスマウグの声で出演している。
 もちろん、マッケラン、ブランシェットはさすがの貫禄だし、ブルームが凛々しいエルフ役に戻って、その魅力を再認識させてくれるなど、文句のない豪華さではある。

 6作を完成したジャクソンはこれからどの方向に進むのだろう。さらなる高みを目指して、新たなる題材に挑む日を切望しつつ、本作を推薦したい。一見の価値は十分にある。