『滝を見にいく』は個性豊かなおばちゃんたちが織りなす、ユニークな冒険コメディ!

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『滝を見にいく』
11月22日(土)より、新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー
製作・配給:松竹ブロードキャスティング、ピクニック、パレード、キングレコード
©2014 「滝を見にいく」製作委員会
公式サイト:http://takimini.jp

 

 コマーシャルなどでよく見かけるがごとく、おばちゃんが登場する映像はどこかコミカルにつくられている。中年になって遠慮がなくなった感を漂わせながらの行動、仕草が見る者の苦笑を呼ぶわけで、殺虫剤や防虫剤などの映像がすぐさま頭に浮かぶ。おばちゃんがギャグの種になるということは理解できるが、おばちゃんをいっぱい登場させて面白い映画に仕上げる猛者は、日本映画界にはなかなか登場しなかった。
 本作でこの題材に果敢に挑んだのが沖田修一だ。自主映画の雄として支持を集め、2009年に商業映画のデビューとなる『南極料理人』が絶賛されたことから、広く注目された期待の存在。その後も、東京国際映画祭で審査員特別賞に輝いた『キツツキと雨』や『横道世之介』など話題作を生みだしてきた彼が、おばちゃんの群像劇にチャレンジしたのだから食指が伸びる。
 ワークショップを開いて映画をつくるという趣旨のもと、沖田監督は“おばちゃんが山の中で迷子になる”展開を提案。それが受け入れられて製作が決まったというのだから、製作委員会に名を連ねている会社はいかに監督に対して全幅の信頼を寄せているかが分かる。監督自身は“ただただ、自分が「面白そうだな」と考えてできた作品”とコメントしているが、脚本にあたっては十分にシナリオ・ハンティングを重ねたという。
 キャスティングにあたっては有名無名を問わず、オーディション方式が採用された。40歳以上であれば演技経験も問われない。なかには監督のシナリオ・ハンティングに同行した女性ガイド、根岸遙子も参加し、みごとに役を射止めた。監督の選考基準はリアルにおばちゃんかどうか。おばちゃんとして生きている人におばちゃんの役を演じさせたかったとコメントしている。
 かくして選ばれたのが前述の根岸遙子に加えて、「ナイロン100°C」の団員である安澤千草、中高年劇団「楽塾」のメンバーでジャズシンガーの過去を持つ桐原三枝、オペラ歌手で舞台で演技の経験もある川田久美子、シニア劇団「さいたまゴールド・シアター」の一員・徳納敬子、劇団「ベター・ポーヅ」に所属する渡辺道子、演技経験はごくわずかな荻野百合子の7人。このキャストが決まった時点で、沖田監督は選ばれたおばちゃんたち本人のキャラクターを役柄に反映させた脚本に仕上げていった。
 撮影にあたっても、おばちゃんたちに「自分のままでいてください」と注文をつけたり、テストの時からカメラを回したりするなど、素のおばちゃん像を浮かび上がらせるために細かい工夫を凝らしたという。その努力が映像にみごとに反映されている。
 なにげない会話や表情をリアルに映像に焼き付け、シーンを繊細に構築することで惹きつける沖田世界が、ここではおばちゃんというパワフルな存在を介して、いっそう魅力的に浮かび上がっている。

 幻の大滝を見にいく温泉つき紅葉ツアーに参加した、おばちゃん7人。バスで移動中から、それぞれが個性全開。騒がしい。少人数にもかかわらず、すでに派閥らしきものまで形成されている。
 滝までは徒歩で行くということで、添乗員に連れられて山の道を進む7人、だが、添乗員の様子がどうもおかしい。どうやら道に迷ったらしく、道を確認するため、7人を置いて奥に入っていった。
 この添乗員が帰ってこない。しかも電話は圏外。最初は笑っていた7人も不安になり、添乗員捜索組と待機組の二手に分かれる。だが、捜索組のひとりが足を挫いたことで、待機組も合流。添乗員を当てにしないで下山する決心を固める。
 ところが道は分かりにくく、どんどん迷走するばかり。ついには野宿する羽目に陥る。ことここに至って、仲のよくなかったおばちゃん同士も協力しあうしかなく、それぞれが次第に心を開いていく。
 やがて夜が明けたとき、おばちゃんたちは忘れかけていた自分自身に向き合うことになる――。

 大自然のなかで悪戦苦闘するという非日常的体験を通して、おばちゃんたちが自分を再認識する。監督は「おばちゃん版『グーニーズ』」とインタビューに応えていたが、派手なアクションやスタントはないものの、これはこれで立派なアドヴェンチャーである。
 ゆるい会話とどこまでも自然なおばちゃんたちの動きのリアリティに支えられて、ぐいぐいと画面に惹きこまれていくうちに、7人のおばちゃんの人生がそれぞれ浮かび上がってくるつくり。そりゃおばちゃんになれば、琴線に触れるエピソードのひとつやふたつは持ち合わせている。それが道に迷うという冒険のなかに織り込まれる、巧みな構成だ。
 最初は、あまり共感のできないおばちゃんたちだが、ストーリーの進行とともに、各々のキャラクターが厚顔になった事情が明らかにされていく。どこといって魅力のない印象だったおばちゃんたちが次第に好もしくみえてくるのだ。
 監督は市井の人を映画にしたいという気持ちから、おじちゃん、おばちゃんにより興味を感じるのだという。そこには普通の人のコミュニケーションを描きたいという姿勢が内包されているわけで、本作はその頂点にある。どこまでもナチュラルな雰囲気を保ちながら演出に努めたというが、画面にはきっちりと神経が行き届いている。この監督の繊細さ、ユーモアの感性はまことに秀でている。

 出演したおばちゃんたちもまことに役にはまっている(というか、本人たち自身のキャラクターが反映されているのだから当然か)。美人というより、どこにでもいそうな容貌・体躯の持ち主たちが、冒険を通して愛すべき個性を取り戻していくあたりが真骨頂。演出のよろしきを得て、それぞれが素敵な魅力を発揮している。

 おばちゃんの映画をつくれば面白いという案に乗った製作陣に拍手を送りたくなる。中高年齢層が映画の興行を支えている現状にあっては、まさにツボにはまった企画。こうした作品が着実に集客できる状況が来れば、跡に続く作品も出てくるだろう。まずは応援する所以である。