『ラストミッション』は、ケヴィン・コスナーが凄腕スパイに扮してアクションを披露する、痛快エンターテインメント!

ラストミッション:メイン
『ラストミッション』
6月21日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ショウゲート
©2013 3DTK INC.
公式サイト:http://lastmission.jp/

 

 1980年代後半から1990年代前半にかけてのケヴィン・コスナーはまさにアメリカの国民的スターだった。1985年の『シルバラード』の頃から注目を集め、1987年の『アンタッチャブル』で主役に抜擢されて全国区の人気を獲得。
 それからは日の出の勢い。『追いつめられて』から『さよならゲーム』、『フィールド・オブ・ドリームス』や『リベンジ』など、次々と話題作に出演して人気度を高めていった。さらにコスナーは、製作・監督も兼ねた1990年の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でフロンティアに対するヒロイックな思いを謳いあげ、おりからの湾岸戦争直前の気運と呼応して、大絶賛を受け、アカデミー作品賞と監督賞を手中に収める。国民的スーパースターとなった彼は、ヒロイズムを具現化した『ロビン・フッド』や『JFK』、『ボディガード』、『ワイアット・アープ』などのヒットを飛ばしていく。
 もはやコスナーに死角はないようにみえた。だが、調子に乗って製作した『ウォーターワールド』が大失敗。私生活でも不倫スキャンダルによって、離婚の憂き目。“良きアメリカン・ヒーロー”の座から滑り落ちてしまう。まさに転がる石のごとく。コスナーの人気は下落し、『13デイズ』や『ワイルド・レンジ 最後の銃撃』以外、作品にも恵まれない状態が2010年頃まで続くことになる。
 起死回生の好機が訪れたのは、2012年のテレビ映画「ハットフィールド&マッコイ 実在した一族VS一族の物語」に出演、主役のアンス・ハットフィールドで渋い味を披露したことからだった。同作はゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、コスナーはミニシリーズ・テレビ映画部門の主演男優賞を手中に収める。
   時を同じくして、『ボディガード』で共演したホイットニー・ヒューストンの葬儀における彼のスピーチの素晴らしさがネット上で評判となり、映画作品も『マン・オブ・スティール』や『エージェント:ライアン』などで、ヒーローを盛りたてる脇役を好演。還暦を目前にした現在、ようやく俳優としての居場所を取り戻してきた感じである。
 そうしたコスナーに着目したのが、リュック・ベッソンだ。これまでもジェイソン・ステイサムを起用した『トランスポーター』シリーズや、リーアム・ニーソンをアクション・ヒーローに仕立てた『96時間』シリーズなどを生み出し、アクション・エンターテインメントに実績のあるベッソンが、かつて好感度の高いヒーロー・イメージを誇った彼を見逃すはずがない。ベッソン自身の原案をもとに、コスナーのイメージを考えたキャラクターを設定して、ベッソンと『パリより愛をこめて』のアディ・ハサックが脚本化。『チャーリーズ・エンジェル』や『ターミネーター4』などで知られるマックGを監督に起用するという態勢でコスナーを迎え入れた。
   どこまでも痛快さを追求して、映像がスピーディに疾走する。アクション、スタントを散りばめ、ベッソンの荒っぽいスタイルを維持しながらも、コスナーの爽やかなイメージを壊さないというチャレンジ。これが功を奏している。
 しかも共演陣が『ラム・ダイアリー』のアンバー・ハード、『トゥルー・グリッド』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたヘイリー・スタインフェルド、『グラディエーター』のコニー・ニールセンなど、個性に富んだ顔ぶれが選りすぐられている。

 凄腕のCIAエージェント、イーサン・レナーはベオグラードで任務にあたっている最中に昏倒。気がつくと病院にいて、余命3カ月と宣言される。
 残された時間を、別れた家族と過ごそうと思い、仕事を辞してパリに戻ると、アパートはアフリカ人家族が不法占拠していた。冬の間は追い出せないという法律のため、レナーは受け入れるしかない。彼は別れた妻のクリスティンに事情を話し、娘のゾーイとともに過ごす許可を得るが、ゾーイの方は戸惑うばかり、迷惑でしかない。
 こうして家族とともに過ごす生活をはじめたレナーのもとに、謎の女性エージェント、ヴィヴィが接触してくる。ウルフというテロリストを始末することと引き換えに、余命を伸ばす特効薬をくれるというのだ。家族のためにも余命を伸ばしたいという気持ちから、レナーはそのミッションを引き受ける。かくして彼は、テロリスト抹殺計画を遂行しながら、娘に対してよき父でいるという、身体がいくつあっても足りないような難事に挑んでいく――。

 海千山千のスパイも自分の娘の扱いに苦慮するという、ありがちな設定ながら、コスナーに演じさせるところがミソ。しかも、余命を宣告されたキャラクターだけにそこはかとなくペーソスも漂う。マックGはまずベオグラードのエピソードで、主人公のスキルを知らしめてから、おずおずと娘との絆を取り戻そうとする主人公の姿を紡いでいく。本来なら、余命も残されていないことの悲しみが浮かび上がってきそうだが、マックGはそんなことに頓着しない。
 娘との世代ギャップに困りぬく主人公をユーモアをこめて描き出しつつ、とことん痛快なアクション、スタントを散りばめていく。なによりも特効薬の存在によって悲壮感が押さえこまれ、パパの奮闘ぶりの方が立ち上がる。引き受けた任務の方も、依頼する女性エージェントの変幻自在の扮装も含め、ひたすら見せ場重視。とにかくタフなレナーの活躍をクローズアップする。アメリカではご都合主義で底が浅いという評があったようだが、この手の作品で深刻になられても困るので、能天気といえば能天気だが、最後まで安心してみていられる展開にむしろ好感を覚える。

 主演のコスナーは年輪を重ねて、かなり容姿にペーソスが出てきたものの、まだアクションを颯爽とこなせるし、ヒーローとしての輝きは健在だ。肩に力の入った作品よりも、こういう気楽なヒーローぶりの方が好感度は高い。
 なによりの発見はロバート・ロドリゲスの怪作アクション『マチェーテ・キルズ』でも怪演をみせたアンバー・ハードの個性だ。さまざまな扮装で登場する女性エージェントに挑み、ユーモアと凄味を存分にふりまきつつ、存在感たっぷりに演じてみせる。ハードの並はずれた個性は今後も目が離せない。
 娘ゾーイに扮するスタインフェルドもティーンに成長して、多感な気持ちの揺れをさらりと表現しているし、妻役のニールセンも未だ色香を漂わせる。女優陣のキャスティングはなんとも好もしい。

 アメリカでは今ひとつヒットに結びつかなかったようだが、最後まで飽きさせない。コスナーのヒーローぶりをもっと見てみたい気にさせられる。暑い夏にふさわしく、深刻なことは何も考えずに楽しめる仕上がりである。