『荒野の誓い』は余韻が心に沁み入る、絵空事ではない正統派ウエスタン。

『荒野の誓い』
9月6日(金)より、 新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES
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公式サイト:http://kouyanochikai.com/

 

かつてはインディアンと呼ばれ、フロンティア・スピリットを謳う白人の添え物として扱われてきた先住民が、ネイティヴ・アメリカンと呼称を改められた頃より、ウエスタンというジャンルは急速に力を失った。

公民権運動の高まりとともに、白人側の開拓史そのものが、先住民から土地を奪いとった侵略であることを認めざるを得なくなった。必然的に、勧善懲悪で白人の開拓者をヒーローとして描くエンターテインメントは製作しにくくなった。大西部を舞台にしてネイティヴ・アメリカンが登場する場合、人間として扱う配慮が求められるようになったからだ。

それでもウエスタンは消滅したわけではなかった。大西部は人間の業が露わになる点でも魅力的であり、ドラマを構築するのに格好の舞台であったからだ。

本作はひさしぶりにウエスタンの魅力を堪能できる仕上がりだ。

そもそものきっかけは、監督のスコット・クーパーが、コスタ・ガブラスの『ミッシング』などで知られる脚本家ドナルド・スチュワートの原案を目にしたことからはじまる。『クレイジー・ハート』で注目され、『ファーナス/訣別の朝』や『ブラック・スキャンダル』などハードなドラマに挑戦してきたクーパーにとって、かねてよりウエスタンは念願のジャンルだった。スチュワートの原案は彼にとって格好のものだったのだ。ネイティヴ・アメリカンに対するリサーチ、時代考証をしっかりと踏まえた上で、クーパーは脚本を仕上げた。

 

1892年、白人がネイティヴ・アメリカンとの戦争で勝利し、西部にも開発が及びつつあった時代。インディアン成敗で名を轟かせた騎兵隊大尉ジョー・ブロッカーが、病に侵されたネイティヴ・アメリカンのシャイアン族酋長イェロー・ホークとその家族をニューメキシコからモンタナに移送する命を受ける。

大尉にとってネイティヴ・アメリカンは殺すべき対象でしかない。それを移送するなどこれまでの自分の行動に反する。それでも彼は兵士のプロであろうと努める。命令には絶対、従わねばならない。彼は部下を従えて、移送の指揮をとる。

不穏な空気をはらんだ旅は、家族をコマンチ族に殺された女性ロザリー・クウェイドの参加、コマンチ族の襲撃、インディアン憎悪に取り憑かれた白人たちの登場によって、緊張の度合いを深めていく。と同時に、旅は白人とネイティヴ・アメリカン双方の思いを理解しあうことにもなった――。

 

クーパーは白人が侵略者である事実を認めたうえでリアルに映像化していく。戦いに善悪などない。生き残るためには相手を殺すしかない。先住民殺しに身も心も荒み切った騎兵隊大尉を軸に据え、命じられた過酷な任務のなかで、彼が先住民に対する認識を少しずつ新たにするプロセスを描き出す。

もちろん、ウエスタンにはおなじみの銃撃戦、ネイティヴ・アメリカンの襲撃シーンも網羅されているがクーパーは緊張感に満ちたリアルな殺しあいとして描く。ヒロイックな要素は一切、持ち込まない。

本作は大西部の荒野を進む王道のロードムービーであり、現代の視点で当時の状況を描いた作品でもある。それぞれが荒んだ心の持ち主なのだが、この過酷な旅で得るものを、クーパーは極めてリアル、かつハードボイルドに描き出す。どこまでも任務に徹しようとする大尉が旅を通じて何を得て、何を失うか。ストーリーは成長物語としての輝きをも孕んでいる。クーパーがこの原案に惹かれた理由はドラマとしてのあらゆる要素が内包されているからだろう。ここにはラブストーリーの要素までもが織り込まれている。

冒頭に、コマンチによる襲撃を緊張感いっぱいに描き出して見る者を惹きこみ、登場人物の心を反映しているかのような、荒々しい大自然を歩む旅に入っていく。撮影は『THE GREY 凍える太陽』や『世界にひとつのプレイブック』などで知られるマサノブタカヤナギ(高柳雅暢)。クーパーとは『ファーナス/訣別の朝』、『ブラック・スキャンダル』でも組んで、気心が知れている。登場人物の心の移ろいを表すかのような映像でストーリーを牽引している。

 

出演者ではブロッカー大尉に扮したクリスチャン・ベールが圧倒的な存在感をみせる。先住民成敗の英雄と称えられながら気持ちが荒み切ったキャラクターが、旅を通して、先住民もまた人間であり、尊敬に値する人間もいることを知る。そのプロセスをみごとに演じ切っている。寡黙で、任務に忠実であろうと努め、自らの矜持に忠実であろうとするキャラクターを奥行きのある演技、表情で表現してみせる。かつて『太陽の帝国』に抜擢された子役が成長して、ロバート・デ・ニーロも真っ青のメソッドでキャラクターになりきり、着実に演技派俳優の一員となった。そのことが嬉しい。

またイェロー・ホーク役のウェス・ステューディが威厳をもってネイティヴ・アメリカンの人間的な側面を演じ、『ゴーン・ガール』の怪演で再評価されたロザムンド・パイクが家族を失ったロザリー・クウェイドを熱演。このほかベン・フォスター、アダム・ビーチ、ティモシー・シャラメ、スティーヴン・ラングなど、個性豊かな俳優たちが結集している。

 

決して派手な作品ではないが見応え十分。ウエスタンの王道を行く、壮大にして深い人間ドラマとなっている。これはお勧めしたい。