『キャプテン・マーベル』はマーベル・コミック映画のなかでも群を抜いて面白いアクション・アドヴェンチャー!

『キャプテン・マーベル』
3月15日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2019 MARVEL
公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/captain-marvel.html

 2008年の『アイアンマン』を皮切りに、『マイティ・ソー』(2011)、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)、さらに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)、『アントマン』(2015)、『ドクター・ストレンジ』(2016)、『ブラックパンサー』(2018)まで、まことマーベルのコミック・ヒーローが活躍する作品は百花繚乱。彼らが結集した作品が“アベンジャーズ”シリーズとなるわけだが、ここには別活動をしていたスパイダーマンまでも『スパイダーマン ホームカミング』(2017)から参加することになった。
 ヒーローひとりひとりのキャラクターを際立たせることだけでも苦労なはずだが、波乱に富んだストーリーのなかにそれぞれがほれぼれするようなヒーローぶりを披露した。ひとえに、いずれの作品も脚本を練りこみ、話題性のある監督・出演者を起用したマーベル・スタジオの功績である。
 そして、この3月にアベンジャーズを生み出すきっかけとなったヒロインがスクリーンを賑わせる。その名もキャプテン・マーベル。マーベルにとっては初のスーパーヒロインを軸にした作品となる。
 これまでのマーベルのヒーローたちと一線を画すことはもちろん、どんなヒロインをもしのぐ輝きを持たせることが使命となった。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のニコール・パールマン、『インサイド・ヘッド』のメグ・レフォーヴ、『栄光のランナー/1936ベルリン』のアナ・ウォーターハウス、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』のジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレット、『ハーフネルソン』のアンナ・ボーデンにライアン・フレックという女性主導のメンバーが原案を練りこみ、ロバートソン=ドウォレットとボーデン、フレックが脚本化。ボーデンとフレックが監督に抜擢された。
 アンナ・ボーデンとライアン・フレックはニューヨーク大学で映画を学んでいるときに出会い、コラボレーションをするようになった。早くから才能は注目されていて『ハーフネルソン』を発表後、『なんだかおかしな物語』(劇場未公開)や『ワイルド・ギャンブル』(劇場未公開)などを手がけてきた。これが才能を問われる、初のメジャー作品の抜擢となるが、みごと期待に応える手腕をみせてくれる。
 ヒロイン、キャプテン・マーベルに起用されたのは『ルーム』でアカデミー主演女優賞を獲得し、『キングコング:髑髏島の巨神』にも顔を出していたブリー・ラーソン。彼女は撮影9カ月前よりボクシング、キックボクシング、柔道、レスリングを特訓し、筋力トレーニングに励んだ。加えて3カ月のスタント・トレーニングを課して撮影に臨んだという。その成果は作品に洗われている。
 彼女を囲んで『ファンタスティックビーストと黒い魔法使いの誕生』のジュード・ロウ、『アベンジャーズ』ではおなじみのサミュエル・L・ジャクソン、『アニマル・キングダム』のベン・メンデルソーン、『アメリカン・ビューティ』のアネット・ベニングなど、個性に富んだ顔ぶれで揃えられている。

 地球から遠く離れたタリー帝国で“スターフォース”のエリート・ソルジャーとして活動するヴァースは、記憶喪失に苦しんでいた。記憶の断片、悪夢に悩まされ、孤独感を募らせていた。“スターフォース”の司令官ヨン・ログは彼女に自制を命じていたが、彼女は敵対するスクラル人に捕らわれてしまう。
 自在に容貌を変えられるスクラル人は彼女の記憶の底に沈んでいる情報を知ろうとしていた。意識を取り戻したヴァースは戦い、非常用脱出ポッドで逃亡。地球に不時着する。
 1990年代のロサンゼルスに着いたヴァースは、そこでニック・フューリーに遭遇する。国際平和維持組織S.H.I.E.L.D.の一員であるフューリーはヴァースを追い、スクラル人の存在を知って彼女と行動をともにする。
 彼女が地球にいることを知り、スターフォースも後を追う。やがて思わぬ事件の連続に、ヴァースは不屈の心で次第に記憶を取り戻していく。そこには驚くべき真実が隠されていた。地球に隠された謎を解き明かしたとき、彼女は真の名前を取り戻し、キャプテン・マーベルとして覚醒する――。

 キャプテン・マーベル誕生の物語はまことに巧みなストーリーで展開する。前半は記憶がなく、自分が何者であるか苦しむヒロインを描いて見る者を惹きこみ、彼女の記憶をめぐる陰謀の渦中で、前向きに生きるヒロインをくっきりと輝かせる。まことアンナ・ボーデンとライアン・フレックの演出はみごとの一語だ。アイデンティティ探しはヒーロー映画のパターンではあるが、彼女が真の正体を取り戻していく過程を少しの緩みもなく疾走する腕前、さすが抜擢されただけのことはある。
 なにより悲壮ぶらない語り口が好もしい。ユーモアを忘れず、ストレートにヒーロー誕生のストーリーを、予想しなかった見せ場で紡ぐ。詳細を語ることは興を殺ぐことになるので避けるが、見ていくうちに痛快さ、楽しさがぐんぐん増してくる。これまでのマーベル・スタジオの作品のなかでも群を抜いた仕上がりとなっている。
 たとえばヴァースが地球に落ちてくる場所が“ブロックバスター・ビデオ”店で、彼女が『トゥルー・ライズ』や『ライトスタッフ』を手に取るくすぐりからはじまって、疾走するロサンゼルス地下鉄電車上の戦いにつながるなど、実にストーリーのメリハリが効いている。今回はちょっとコメディリリーフ的なニック・フューリーが笑いを誘い、ストレートにヒロイズムを具現化するヴァースにフリルをつける。特に自分の存在を取り戻してからのヒロインはまさに阿修羅のごとく。異星人とキャプテン・マーベルの存在を知ったことから、アベンジャーズ誕生の鍵となったことは容易に想像がつく。
 さらに本編が4月に公開される『アベンジャーズ/エンドゲーム』の流れにちゃんと組み込まれていることも明らかになる。マーベル・スタジオはどこまで深謀遠慮なのか。

 出演者では圧倒的にブリー・ラーソンが輝いている。逞しいがしなやかさを失わない体躯に、輝くばかりの美貌がある。真剣さ、一途さを秘めながらあくまでも明るく、行動によって前に進むキャラクターを魅力的に体現している。キャプテン・マーベルを軸にして、マーベル・シネマティック・ユニバースは新たな段階に進むことは容易に想像がつく。
 共演陣ではニック・フューリーを若々しく(!?)演じたサミュエル・L・ジャクソンがコミカルでおかしいが、ジュード・ロウも“スターフォース”の司令官ヨン・ログをいかにも奥行きのあるキャラクターとして好調だ。アネット・ベニングがこうしたアクション・エンターテインメントに出るのも珍しいが、出番は多くないものの無難にこなしている。

 クライマックスのキャプテン・マーベルは圧倒的に強く美しい。こういうヒロインを待ち望んでいた。これは一見をお勧めしたい。