『スパイダーマン:スパイダーバース』は第91回アカデミー長編アニメーション賞に輝いたアクション・アドヴェンチャー!

『スパイダーマン:スパイダーバース』
3月8日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.spider-verse.jp/

 第76回ゴールデン・グローブのアニメーション作品賞から第46回アニー賞長編アニメーション賞、さらには第91回アカデミー長編アニメーション賞に輝いた傑作の登場である。
 ここまで映画賞を総なめにした理由は、アメリカン・コミックを原作としながらも、志が高く、CGアニメーションと手書きアニメーションを融合させ、胸のすくようなアクション・アドヴェンチャーのなかに胸が熱くなる成長物語を加えた。
 これまではクオリティのあるアニメーションを謳い、アメリカン・コミック原作のアニメーションを無視してきた各賞関係者も本作は無視できなかった。考えてみれば、第91回アカデミー賞では『ブラックパンサー』が作品賞にノミネートされたが、アメリカン・コミック原作作品の受賞は本作が初めて。それだけすばらしい仕上がりである証明といえる。
 本作を仕掛けたのは『くもりときどきミートボール』や『LEGO®ムービー』などで知られるフィル・ロードとクリストファー・ミラーのコンビ。彼らが考えたのはこれまでの『スパイダーマン』とは異なるキャラクターの登場だった。ピーター・パーカーのスパイダーマンを核にするのではなく、新たなキャラクターのスパイダーマンだ。
 フィル・ロードは『リベンジ・マッチ』のロドニー・ロスマンとともに脚本を練りこみ、13歳のマイルス・モラレスがスパイダーマンとなるストーリーを構築した。この脚本をもとに『リトルプリンス 星の王子さまと私』のボブ・ペルシケッティと『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』(劇場未公開)のピーター・ラムジー、そしてロドニー・ロスマンが監督を担当。3人それぞれが能力を発揮して作品を完成に導いた。
 声の出演はNetflixのテレビ作品「ゲットダウン」で主役を務めたシャメイク・ムーアを筆頭に、『バンブルビー』のヘイリー・スタインフェルド、『スポットライト 世紀のスクープ』のリーヴ・シュレイバー、『グリーンブック』で2度目のアカデミー助演男優賞に輝いたマハーシャラ・アリ、『縮みゆく女』のリリー・トムリンまで充実した顔ぶれとなっている。

 闇社会に君臨するウィルソン・フィスク(キングピン)は加速器で異次元の扉を開く実験を行なうが、寸前にピーター・パーカー(スパイダーマン)に阻止される。瀕死の重傷を負ったパーカーが後を託したのが、突然変異の蜘蛛に噛まれた13歳の少年、マイルス・モラレス。
 スーパーヒーローになるにはまだまだ未熟な彼の前に、実験によってゆがめられた時空から別の次元のピーター・パーカーがやってくる。さらにスパイダー・グウェン、スパイダーマン・ノワール、スパイダー・ハム、ペニー・パーカーといったヒーローたちが、モラレスの前に現れる。
 キングピンは異次元の扉を開かなければならない切実な事情があった。
 モラレスは別次元のパーカーの力を借りて、スーパーヒーローの修行をするとともに、別次元のヒーローたちの力を借りて次元のゆがみを正し、彼らをもとの次元に変えそうと必死の戦いを挑む――。

 これまでアニメーション、実写映画で描いてきたスパイダーマンの世界も次元を変えれば、こういった話もできるのかと納得させられる。これまでにパラレルワールドや多次元世界の発想はあったが、実際にアメリカン・コミックの映像化に応用したことが新鮮だ。しかも別次元のスパイダー・グウェン、スパイダーマン・ノワール、スパイダー・ハム、ペニー・パーカーたちが一堂に介するのもサービス精神満点で嬉しい限り。まこと有名キャラクターを扱いながら、ここまで自在にストーリーのイメージを広げた例も珍しい。なにより、主人公をプエルトリコ人とアフリカ系アメリカ人のハーフに設定したことで、より時代に呼応した世界に仕立てることが可能になった。モラレスの世界はパーカーの世界よりはるかにリアルな雰囲気が漂っている。
 さらに主人公が思春期の少年であることから、成長物語としてしっかり成立させている。父親を煙たい存在と感じ、むしろストリート系の叔父アーロンを慕っていたが、ヒーローの責任というものを、体験を通して知るうちに、父の誠実さを実感するようになるあたり。まことに正統的なヒーローの資質を十分に描きこんである。
 楽しいのはスパイダーマンの多様さだ。フィルムノワール風のスパイダーマン・ノワールや、カートゥーン風の豚キャラのスパイダー・ハム、さらには日本のアニメ風のペニー・パーカーなどなど、意表を突いた容貌が楽しい限り。それぞれの冒険物語も期待したくなる。

 安易にアメリカン・コミックの人気によりかかるだけではなく、世界観をかっちりと定め、新鮮なストーリーを構築すれば傑作が生まれる余地はまだまだある。映画の楽しさ、醍醐味が凝縮された本作はすべての世代が楽しめるエンターテインメントだ。