『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』は1960年代の熱気を実感できる素敵なドキュメンタリー!

『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』
2019年1月5日(土)より、Bunkamura ル・シネマ他全国順次公開
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
©Raymi Hero Productions 2017
公式サイト:https://mygeneration-movie.jp/
Photo by Stephan C Archetti Keystone Features Hulton Archive Getty Images

 考えてみると、1960年代は世界各国で若者が突出した時代だった。
 1950年代後半より、おとなたちが仕切っていた体制、社会が綻び、若者が反逆できる隙間が生まれた。アメリカではエルヴィス・プレスリーやジェームズ・ディーンなどの“反逆するヒーロー”が生まれ、世界中で支持された。この頃から純粋さとひたむきさを武器に、若者たちは社会や事象に対して少しずつ異議申し立てをするようになった。そうして疾風怒濤の1960年代に突入していく。
 この時代は既成の体制、政治が大きく揺らいだ時期だった。東西冷戦の緊張が高まり、アメリカはヴェトナム戦争に深く踏み込んでいった。こうした不穏な状況のなかで、既成のエスタブリッシュメントにノーという風潮が全世界的に巻き起こる。学園闘争や政治闘争が日本をふくめ各国に起こると同時に、若者たちが打ち出した新しい文化も大きく注目されるようになっていった。

 なかでもイギリスは鮮烈だった。音楽、映像、ファッションが突出し、世界を牽引していくようになる。本作がヴィヴィッドに描き出すのは、もっとも輝きを放ったイギリス・ロンドンの1960年代。そこに集った才能たちの姿だ。
 イギリスが他国よりも先鋭だったのは、階級社会であったことが大きい。まず1950年代、ジョン・オズボーンやアラン・シリトー、ジョン・ウェインをはじめとする“怒れる若者たち”と呼ばれる作家たちが、労働者階級や下層中産階級の若者がエスタブリッシュメントに反逆する姿をリアルに紡いでセンセーションを巻き起こした。この小説群は、リンゼイ・アンダーソンやカレル・ライス、トニー・リチャードソンなどの監督によって映像化され、世界的な注目を集めた。トニー・リチャードソンの『長距離ランナーの孤独』や『蜜の味』、カレル・ライスの『土曜の夜と日曜の朝』、リンゼイ・アンダーソンの『孤独の報酬』などの作品群は永遠の名作として高い評価を受けている。
 それまで無視されていた労働者階級が積極的に声を上げ、文化に革命を起こした。本作は時代の寵児となった人々をピックアップし、彼らの軌跡をコラージュしていく。
 ナビゲーターを務めるのは名優マイケル・ケイン。『ハンナとその姉妹』や『サイダーハウス・ルール』で2度のアカデミー助演男優賞に輝いたケインにとって、1960年代はバリバリの売り出し時期。それまで俳優は正統的な英語を話すことが求められていたが、ケインはあえて労働者階級のコックニー訛りの英語を貫いて、スターダムにのし上がった。『アルフィー』や『ズール戦争』などの作品、当時のインタビュー映像を挿入しながら、現在のケインが時代を回顧していく。
 もちろん、当時のイギリスの隆盛を描くうえで、欠くことのできないのが音楽。あまりにも有名なビートルズ、ローリング・ストーンズにはじまってザ・フー、キンクス、エリック・バードンとアニマルズ、ドノヴァンなどのアーカイヴ映像や楽曲が流れ、みる者を熱い時代に惹きこむ。
 タイトルからザ・フーの「マイ・ジェネレーション」が流れるのはお約束。以降、アニマルズの「朝日のない街」やドノヴァンの「サンシャイン・スーパーマン」など時代を画した名曲の数々が挿入されるのだから、音楽ファンならずとも感涙の嵐。現在も活動しているポール・マッカートニー、ミック・ジャガー、ロジャー・ダルトリーが過去を振り返り、時代をノスタルジックに証言する趣向も嬉しい。
 加えて、1960年代のロンドンはファッションでも先端を行っていたことを、写真家のデイヴィッド・ベイリーや、当時凄まじい人気を誇ったモデルのツイッギー、女優・歌手のマリアンヌ・フェイスフルが明らかにする。ヴァラエティに富んだアーカイヴ映像とともに、ヘアドレッサーのヴィダル・サスーンやファッション・デザイナーのメアリー・クワントも登場。彼らがその斬新なスタイルで注目されたのもこの時代だった。彼らの現在のコメントもなかなかに味わい深い。
 ロンドンのこうした文化を支えたのは、イギリスのみならず世界中のベビーブーマーたちだ。日本では団塊の世代と呼ばれる彼らが新しい流行、既成概念を覆すムーヴメントに快哉を叫び、熱烈に支持したのだ。当時は全人口の半分が25歳以下だったといわれているから、影響は大きい。彼らに向けた市場が生まれ、それが現代にまでつながっている。
 あまりに流行や文化が影響力を持ちすぎたとき、体制は反撃に出る。1960年代のロンドンでは麻薬の摘発でスターたちを逮捕することで、体制は流行に水を差した。ドノヴァンが逮捕され、ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズは中毒死した。やがて1970年代に入るや、バラ色の革命を信じたベビーブーマーは体制の厚い壁にはね返され、事態は急速に沈静化することになる――。

 本作は若者たちが一瞬であっても、体制に一撃を加えた事実を鮮やかに紡ぎだす。監督のデイヴィッド・バッティは1980年代よりプロデューサー・監督。テレビのドキュメンタリーなどで時代を活写することに長けた人だ。『ザ・コミットメンツ』や『スティル・クレイジー』などで知られる脚本家コンビ、イアン・ラフレネーとディック・クレメントが3章仕立ての展開を考え、ナレーションを作成。バッティは膨大なアーカイヴ映像を取捨選択、現在の映像と融合させた。

 この時代を体験しなかった若い世代には新鮮に映るだろうし、ベビーブーマーにとっては懐かしさを再体験させる仕上がり。新春の嬉しい1本。一見に値する。