『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』は迫力満点の映像を誇るJ・K・ローリングのファンタジー。

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』
11月23日(金・祝)より全国ロードショー 3D/4D/IMAX同時公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
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Harry Potter and Fantastic Beasts Publishing Rights ©J.K.R.
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/fantasticbeasts/

 2001年から2011年に渡って全8作、世界中で大ヒットした『ハリー・ポッター』シリーズは、原作ともどもファンタジーの楽しさを広く知らしめたことで特筆に値する。原作者J・K・ローリングの構築した魔法世界は熱狂的に支持され、シリーズ終了後には復活を望む声が世界中で上がった。
 ローリング自身も豊かなイマジネーションに満ちた世界に愛着があったのだろう。初めて映画用に脚本を執筆し、2016年に『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を発表する。描かれるのはハリー・ポッターがホグワーツ魔法学校に入ったときから70年遡った世界。ハリー・ポッターが学んだホグワーツ魔術学校の教科書「幻の動物とその生息地」の著者、ニュート・スキャマンダーを軸に心も弾む冒険世界が繰り広げられていく。この作品は世界で8億1千万ドルを超えるヒットを記録。世界中がこの魔法世界を待望していたことを証明してみせた。
 そうして本作の登場となる。魔法動物学者ニュート・スキャマンダーの冒険シリーズ第2弾。第1作ではニューヨークが舞台にしたストーリーだったが、今度はヨーロッパ、パリを背景にストーリーが展開していく。と同時にストーリーが次第にダークな色彩を帯びていくのも特徴である。

 囚われていた強大な“黒い魔法使い”ゲラート・グリンデルバルドが護送中に逃亡した。彼は魔法界と人間界の支配を企み、現状に不満を抱く魔法界の人間たちを結集しようと考えていた。
 ニュート・スキャマンダーはホグワーツ魔法学校時代の恩師アルバス・ダンブルドアに呼び出され、「“黒い魔法使い”を倒すのは君だ」と告げられる。途方に暮れながらも、ニューヨークで出会った魔法使いのクイニー・ゴールドスタインと人間のジェイコブ・コワルスキーと再会。心を寄せるティナ・ゴールドスタインがパリにいることを知り、魔法動物を入れたトランクを携えて花の都に向かう。
 パリには自分のアイデンティティを探し求める、凄まじい力を秘めた青年クリーデンス
がいた。グリンデルバルドはこの青年を自分の側に引き入れることを目論んでいた。
 スキャマンダーはパリでジェイコブ、ティナとともにグリンデルバルドの企みを探るが、その行為は仲間との絆を問いかける試練となる。そしてグリンデルバルドは世界を二分する決断を魔法界に求める――。

 キュートな魔法動物を前面に押し出した第1作に比べると、魔法世界の対立と個々のキャラクターの葛藤が軸となるため、映画はシリアスな趣が強くなる。恩師アルバス・ダンブルドアとゲラート・グリンデルバルドの対立のなかで、なぜ超級の魔法使いでもあるダンブルドアはグリンデルバルドと戦わないのかが明らかになり、ニュート・スキャマンダーのホグワーツ魔法学校時代や、兄テセウス・スキャマンダーとの確執も紡がれていく。ひょうひょうとした個性が持ち味のスキャマンダーも魔法界の内紛に巻き込まれ、グリンデルワルドの提唱する、二分化した世界のどちら側に与するかを選ぶことになる。
 人間界との共存を続けてきた魔法界に、グリンデルワルドは自分の信じる正義の履行を訴える。恵まれなかった魔法使いにとっては耳障りのいい言葉で行動を呼びかけるのだ。その姿は極端な言動を弄する現実の政治家にも重なる。ローリングは本作がファンタジーの王道、現実世界の反映であることを強くアピールしている。不寛容さを強める社会においては原理主義的な発言や紋切り型の正義を唱えることが魅力的に響くことがある。そうした危機感をローリングが抱いていることがグリンデルワルドの造形に大きく寄与している。
 本作ではスキャマンダーは翻弄される側に留まっている。ダンブルドアにグリンデルワルドを倒すようにいわれるが、過去に起因する奥行きのある世界のとば口にいるに過ぎないのだ。本作をみると、目まぐるしく展開するストーリーの速さに驚きつつ、間違いなく、第3弾を渇望することになる。
 監督のデヴィッド・イェーツは『ハリー・ポッター』シリーズの後半4作品、さらに『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を手がけた、ローリング世界を映像化する第一人者。前作のイントロ的な趣から、本作では一転、入り組んだキャラクターたちの関係を手際よくつなぎつつ、魔法界を揺るがす陰謀をスペクタクル満点に描き出す。情報量が多すぎて、咀嚼するのに時間がかかるきらいはあるものの、スピーディに最後までグイグイと押し通してみせる。

 出演者ではニュート・スキャマンダー役のエディ・レッドメインは、本作では激動するストーリー展開を受ける立場とあって、むしろ抑え気味。表情に感情の起伏をにおわせる、繊細な演技を披露している。
やはり強力に事態を牽引するゲラート・グリンデルバルド役のジョニー・デップのカリスマ性と、アルバス・ダンブルドアに扮したジュード・ロウの洒脱さが光る。もはやベテランの域に達したふたりの競演が作品をさらに魅力的なものにしている。
 ティナ・ゴールドスタイン役のキャサリン・ウォーターストーン、クイニー・ゴールドスタイン役のアリソン・スドル、ジェイコブ・コワルスキー役のダン・フォグラーなど、前作からのキャラクターも本作で大きな岐路に立つことになる展開だけに、それぞれが微妙な機微を披露。作品の緊張感を盛り上げている。

 次作がさらなるスケールと緊張感をもった内容になることは疑いがない。次作の完成は2年後だろうか。待ち遠しい限りだ。