『ペンギン・ハイウェイ』は少年の成長を描く、瑞々しい感性に彩られファンタジー・アニメーション。

『ペンギン・ハイウェイ』
8月17日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:東宝
©(C)2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会
公式サイト:http://penguin-highway.com/

 アニメーションの担い手がクローズアップされるたびに、日本のアニメーションの層の厚さを知る。一昨年の『この世界の片隅に』を手がけた片渕須直や『君の名は。』の新海誠は既に実力を謳われていた存在だったが、本作の監督・石田祐康とキャラクターデザインの新井陽次郎は発見だった。カナダ・モントリオールで開催された第22回ファンタジア国際映画祭において最優秀アニメーション賞である“今敏賞”を贈られたことで、ふたりの認知度はたちまち高まった。同映画祭がアジアに向いた賞であり、日本人映画人が多く受賞していることを差し引いても、受賞は称賛に値する。
 本作はまことにふたりの個性が際立つ仕上がりとなっている。
 10歳の利発な少年が体験するひと夏の体験を、瑞々しく爽やかに描き出して好感を呼ぶ。題名のまま、ペンギンが画面に溢れるインパクトに驚かされ、年上女性に対する憧れの念、夏休みの弾ける楽しさなど、誰しもが一度は味わったことのある情感に身を浸すことができる。成長のドラマとしても素敵な仕上がりとなっている。
「夜は短し歩けよ乙女」などのベストセラー小説で知られる、森見登美彦の日本SF大賞受賞作「ペンギン・ハイウェイ」を原作に、『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン』などで知られる、“ヨーロッパ企画”の上田誠が脚色。監督の石田祐康にとっては本作が劇場長編作品デビュー作となる。チームを組む新井陽次郎はスタジオジブリでアニメーターを務めた経歴の持ち主。石田祐康と立ち上げたスタジオコロリドでキャラクターデザイン、アニメーション・ディレクターを担当し、研鑽を積んできた。本作もスタジオコロリドの制作となる。
 声の出演は、テレビシリーズ「バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」に抜擢された北香那が主人公の少年に扮し、少年が憧れる不思議なお姉さんには蒼井優がキャスティングされている。加えて釘宮理恵、潘めぐみ、福井美樹といった声優陣に、西島秀俊、竹中直人といったベテランが色を添えている。
 なにより特筆すべきは主題歌を宇多田ヒカルが担当していること。音楽を担当した阿部海太郎が映像に膨らみを持たせ、本作のために書き下ろされた宇多田の「Good Night」が映像の余韻をみる者に沁みこませる。ふたりの卓抜した音楽感性が本作の魅力をさらに倍増している。

 小学4年生のアオヤマ君は毎日、世界について学び、体験したことを日記につけている。
自分で将来はえらい人間になるだろうと思っている。アオヤマ君が気になっているのは歯科医院に勤めている、胸の大きなお姉さん。気さくで自由奔放にしてミステリアス。少年はお姉さんの研究もしていた。
 夏休みを翌月に控えたある日、アオヤマ君の住んでいる郊外の町に突然、ペンギンが多数、出現し、消えた。ペンギンはどこからきて、どこに消えたのか。アオヤマ君はペンギンたちの通った道をペンギン・ハイウェイと名付け、研究を始める。するとお姉さんがなんとコーラの缶をペンギンに変えるのを目撃。驚いたアオヤマ君がいくら研究しても謎が深まるばかり。
 学校では、アオヤマ君が一目置く賢い少女ハマモトさんがアオヤマ君と研究仲間のウチダ君を、誰も行かない森の奥に誘う。そこには球体の透明の物体が浮かんでいた。どうやら球体は“海”らしい。
 アオヤマ君は“海”とペンギン、お姉さんと何かつながりがあるのではないかと考えるが、お姉さんが体調に異変を興し、さらに町は“海”の変化によって凄まじい異常現象に見舞われる。アオヤマ君は謎を解いて、この一大事を解決することができるのか――。

 少年の甘酸っぱいひと夏の体験とSF世界を融合させて、爽やかなエンターテインメントに仕上げた手腕に、まず拍手を送りたくなる。石田監督の演出ぶりは、幾分、ストーリーに舌足らずなところはあるものの、アオヤマ君の心情をきっちりと描き、わくわくするような冒険譚に仕立てたことがよかった。お姉さんとの交流の描き方も節度がありながら、少年の淡い恋情をほんのりと浮かび上がらせている。こういう初恋がしてみたいと思わせる設定なのだ。原作に忠実であり、本作ではアオヤマ君の心に踏み込んでいる。
 なにより、ペンギンである。ユーモラスな容姿を強調したキャラクターに設定したことが功を奏して、画面に大きなインパクトを与えている。なによりもクライマックスの膨大な数のペンギンのスペクタクルはとてつもなく楽しい。人間のキャラクター自体に個性がない分、ペンギンがいっそう際立つ。
 声の出演も過不足なく、キャラクターの魅力を盛り上げているが、何といっても宇多田ヒカルの主題歌と阿部海太郎の音楽が効いている。映像と音楽がみごとに相乗効果を上げている。

 新しいアニメーションの担い手を応援したくなる。まずは一見をお勧めしたい。