『オーシャンズ8』は豪華な出演者が妍を競う、理屈抜きに楽しいクライム・アクション。

『オーシャンズ8』
8月10日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/oceans8/

 昔の映画界でよく使われた惹句に「オール・スター・キャスト」というフレーズがあったが、2001年に製作された『オーシャンズ11』はジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、ジュリア・ロバーツをはじめ大物スターが多数、個性を競う趣向で、まさしくこの惹句に相応しい仕上がりだった。全編にお遊び気分が横溢し、痛快な結末が用意されている。1960年に製作されたオリジナル『オーシャンと十一人の仲間』よりも、はるかに無邪気で楽しい仕上がりで、『オーシャンズ11』は世界的なヒットとなった。
 ヒットを飾れば続編が生まれるのは当然の理。スターたちがスケジュールの合うときを見定めて『オーシャンズ12』(2004)、『オーシャンズ13』(2007)が製作され、いずれも多くの支持を集めた。
 男性中心の「オール・スター・キャスト」が成功したのなら、女性版が誕生しても何の不思議もない。『オーシャンズ』シリーズ最新作の本作は個性豊かな女優たちが火花を散らす。『スピード』や『ゼロ・グラビティ』で知られるサンドラ・ブロックを軸にして、『ブルー・ジャスミン』や『キャロル』の演技力が絶賛されたケイト・ブランシェット、『プラダを着た悪魔』や『レ・ミゼラブル』が忘れがたいアン・ハサウェイ。『40歳の童貞男』やテレビシリーズで人気を培うインド系女優ミンディ・カリング。『キャロル』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』などの演技派サラ・ポールソン、世界的なシンガーソングライター、ファッション・アイコンとしても知られ、『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』にも出演したリアーナ。さらにアジア系(中国と韓国のハーフ)のラッパーで女優としても活動しているオークワフィナ、『シンデレラ』や『アリス・イン・ワンダーランド』でコミカルな演技を披露したヘレナ・ボナム=カーターまで多士済々。
 迎え撃つ男優陣は、『ピーターラビット』で主人公の声を演じ、テレビショーの司会で人気のジェームズ・コーデン、『ホビット』3部作で英雄トーリン・オーケンシールドを演じて世界的注目を集めたリチャード・アーミテイジ、『オーシャンズ』シリーズからエリオット・グールドなどが、女優陣を盛り上げる。
 さらにヴォーグ氏の名物編集長アナ・ウィンター、セレブで女優のキム・カーダシアン・ウェスト、プロテニスプレイヤーのセリーナ・ウィリアムズなども顔を出す。まことゴージャスを絵に描いたような布陣だ。
 監督を務めたのは『シービスケット』や『ハンガー・ゲーム』で知られるゲイリー・ロス。『オーシャンズ』3部作を手がけたスティーヴン・ソダーバーグが製作でサポートし、ロスは、インディ作品『エンド・オブ・ハイスクール』(2018・劇場未公開 Netflixで配信)の脚本・監督で、「注目すべき脚本家10人」に選ばれたオリビア・ミルチと共同で脚本を執筆している。ミルチが参加することで女性の目線、意見を存分に取り入れようとの思いからだという。
 サスペンスとユーモアが交錯し、楽しさ重視で仕上げられた女性主導のエンターテインメント。なによりも華やかさが画面に横溢している。

 オーシャン一家のリーダー、ダニー・オーシャンの妹デビーが5年の刑期を終えて出所するや否や、デビーは片腕のルーのもとを訪れ、考え抜いた強奪プランを実行に移すべく、メンバーを集める。
 天才ハッカーやジュエリー職人、盗品ディーラー、スリが顔を並べるなか、デビーは計画を明らかにする。世界最大のファッションの祭典“メットガラ”でハリウッド女優ダフネ・クルーガーにカルティエの伝説的な宝飾品トゥーサン・ネックレスを纏わせ、奪うという手の込んだ計画だった。この計画のためには、ダフネにネックレスにふさわしいドレスをデザインするファッションデザイナーも必要だった。
 防犯カメラが張り巡らされ、リアルタイムで全世界に生配信されるなかで、彼女たちの計画が実行に移される。予想外の展開で思わぬメンバー増加もあったが、デビーの目的は単に強奪だけではなかった――。

 秀抜なアイデアや予断を許さないストーリー展開。明らかにすると興を殺ぐので、見てのお楽しみという以外はない。豪華絢爛な宝飾品の輝きに惹きこまれ、ファッショナブルな衣装を身にまとった女性たちの大胆至極な強奪計画が嬉しくなる。それぞれ個性の異なる女優たちに見せ場を持たせ、顔合わせの妙で魅力を倍増させるあたりは、ゲイリー・ロスの目論見通り。彼女たちの肩の力の抜けた演じっぷりが作品の楽しさを倍加させている。
 全編、女性たちのユーモアたっぷりの会話の応酬はオリビア・ミルチが加わった成果だろう。それぞれ環境の異なるキャラクターが一堂に介し、へらず口と本音が交錯する会話を通して個性を際立たせている。こうした特殊能力をもった猛者を集める面白さは『七人の侍』以来の定番だが、本作では女優陣が適演しているのが功を奏している。
 ロスはてきぱきしたストーリーテリング。女優たちの個性を爽やかに際立たせながら、予断を許さない強奪計画をスリリングに描き出す。女優たちの競演による化学変化を巧みに映像にすくい上げている。幕切れの後味の良さも評価したいポイントだ。

 もちろん、最大の話題は女優陣の競演にある。ヒロインのデビーに扮したサンドラ・ブロックとルー役のケイト・ブランシェットの絶妙な呼吸に拍手を送りつつ、ハリウッド女優ダフネ・クルーガー役のアン・ハサウェイのコケティッシュな魅力に圧倒される。デザイナーに扮したヘレナ・ボナム=カーターのコミカルな演技が出色だし、ミンディ・カリング、サラ・ポールソン、リアーナ、オークワフィナまで、いかにも多民族都市ニューヨークを象徴するような顔ぶれも作品の魅力に大きく貢献している。

 ゴージャスな雰囲気に満ちたクライム・アクション。あでやかな女優たちの魅力を堪能できる仕上がりだ。