『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』はアクションに次ぐアクション、息もつけない快作だ。

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
8月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:http://missionimpossible.jp/

 トム・クルーズの人気アクション・シリーズの最新作はいつも驚きに満ちている。それにしても感心させられるのはクルーズの意識の高さだ。自分がスターとしての地位を維持するためには何を成すべきかを完全にわかっている。
 このシリーズで彼がアピールするのはアクションスターとしての資質を披露することだ。そのためには努力をいささかも惜しんでいない。
 本作ではクルーズはひたすら走り、跳び、空中のヘリコプターに飛びつき、空と大地を飛翔する。かつてのジャッキー・チェンが極めた“体技”に匹敵する奮闘ぶり。今年、56歳になる彼の年齢を考えれば、この頑張りは驚異的だ。
 これも香港映画で派手なアクションに慣れている中国を筆頭に、世界市場で勝負するためには必要不可欠。プロデューサーを兼ねていることもあり、撮影が終わっても、世界各国をまわってプロモーション、ファンサーヴィスも欠かさない。クルーズはまさに映画人のプロの鑑といいたくなる。
 本シリーズでクルーズが心がけているのは超ド級のアクション、スタントを織り込むこと。第4作、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』のドバイにある超高層ビル、ブルジュ・ハリファの跳躍スタントが有名だが、本作ではさらに輪をかけた跳躍の嵐。成層圏に近い高度7620メートルからのヘイロージャンプを筆頭に、クライマックスシーンではヘリコプターにしがみつき、懸命によじ登るアクションまで、問答無用の趣向でみる者を圧倒してみせる。スタント・コーディネーターのウェイド・イーストウッドの協力のもと、クルーズはとことん攻めに転じている。
 本作の監督はシリーズ前作に引き続きクリストファー・マッカリーが務める。クルーズは2008年の『ワルキューレ』の脚本・製作を担当していたマッカリーを知り、2012年の『アウトロー』では脚本・監督を任せ、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』では脚本に参画させた。そうして『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』の原案・脚本・監督に起用するに至る。以降も『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』では製作、『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』では脚本に参画させるなど、クルーズのほとんどの作品にマッカリーの名前がクレジットされている。
 勢いのあるストーリーテラーであり、撮影に際しては脚本に変更を加えることも辞さない。脚本から出発した監督には珍しい現場主義、ここがクルーズの気に入った点かもしれない。本シリーズに関しては怒涛のアクションつなぎ、みる者に息をもつかせぬ語り口で勝負してみせる。
 嬉しいことにキャスティングも豪華さを増している。クルーズに匹敵するフィジカルなアクションスター、『マン・オブ・スティール』や『コードネームU.N.C.L.E』などで知られるヘンリー・カヴィルが競演するのだ。
 シリーズにはお馴染みのヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ。さらに『グレイテスト・ショーマン』で美貌を際立たせたレベッカ・ファーカソンが前作に引き続きアクション・ヒロインぶりを披露し、アレック・ボールドウィン、アンジェラ・バセットといったベテランが存在を主張する。加えてNetflixのテレビシリーズ「ザ・クラウン」で注目を浴びるヴァネッサ・カービーが個性を発揮。また、前作の仇役を演じたショーン・ハリスに、ヒーローの妻を演じたミシェル・モナハンも登場するなど、まさにシリーズの集大成的布陣で構築されている。

 IMFのエージェント、イーサン・ハントと彼のチームは盗まれた3個のプルトニウムを回収すべく、ギャングと交渉していたが、その最中に謎の一味に襲われ、プルトニウムを奪われてしまう。
 ハントとチームはプルトニウムを奪還し、テロリストたちの複数の都市の同時核爆発を阻止するように命じられるが、ハントに不満を持つCIAはエージェントのオーガスト・ウォーカーを監視役にする。
 ハントとウォーカーはブローカーのホワイト・ウィドウと接触。信頼を得るため、ローグ・ネイションのリーダー、サイモン・レーンを脱走させる破目になる。この行動を契機にして、予期せぬ事態がハントに降りかかる。チームのメンバーや愛する人を危機にさらしながら、ハントは空前絶後のミッションを余儀なくされる――。

 ハードな銃撃戦で幕を開けてから、ド迫力のアクションが次から次へと用意され、みる者を釘付けにする。ひとつひとつのアクションが吟味され、テンションとサスペンスをマックスに描くのだから舌を巻く以外はない。今回、クルーズとともにスタントを行なうオーガスト・ウォーカー役のヘンリー・カヴィルは、あまりにハードなので驚いたとコメントしているが、それぞれのスタントが群を抜いたヴィジュアル・インパクト。1980年代のジャッキー・チェン作品のようにスタントの粋をみせてくれる。
 もちろん、チェンのようにひたすら肉体酷使の技ではないだろうが、クルーズ自身もビルの跳躍シーンで骨折しているのだから、ハードさは相当のものだ。マッカリーはストーリー的には枝葉を切り落とし、アクションつなぎでシンプルかつ直線的に進める演出ぶり。ダイナミズムとスピードで押し切ってみせる。いわば冒険活劇の原点、アクションで場面をさらう手法に徹してみせる。
 そうしたマッカリーの姿勢をクルーズは評価しているのだろう。年齢をものともせずに、ひたすらアクションスターとしての能力を磨き上げる。目標を定めて努力するのが、クルーズのプロ根性。どこまでシリーズを続けるかは未定ながら、マッカリーとクルーズの関係はまだまだ続きそうだ。

 出演者ではクルーズの大車輪の活躍をサポートするかたちながら、ヘンリー・カヴィルの存在が映画の迫力をさらに倍加している。鍛え上げた肉体が迫力を生み、映画の緊迫感をさらに高めている。また、ハントを囲む3人の女性たちの個性もみものだ。英国エージェントを演じるレベッカ・ファーガソンのクールな色香、ホワイト・ウィドウを演じるヴァネッサ・カービーの妖艶さ、そしてハントの妻ジュリアに扮したミシェル・モナハンの可憐さまで、それぞれがみごとに役を体現している。

 まこと夏にふさわしい、痛快にしてダイナミックな仕上がり。トム・クルーズのプロとしての姿勢に拍手を送りたくなる。