『インクレディブル・ファミリー』は痛快この上ない、ピクサー製一家団結アドベンチャー!

『インクレディブル・ファミリー』
8月1日(水)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/incredible-family.html

 ピクサー・スタジオが製作するCGアニメーションは常にユニークなキャラクターとアイデアに満ちたストーリーを誇っている。他のスタジオのアニメーション作品と一線を画すべく、アイデアと技術を結集させているのは老舗の意地。アニメーションの世界を牽引する誇りに突き動かされている感じすらする。
 本作は1996年の長編第1作『トイ・ストーリー』から数えて記念すべき第20作にあたる。題名から推察する通り、2004年に劇場公開された『Mr.インクレディブル』の14年ぶりの続編である。監督は『アイアン・ジャイアント』が注目され、『Mr.インクレディブル』と『レミーのおいしいレストラン』を手がけてアカデミー長編アニメーション賞受賞を誇るブラッド・バード。バードはアニメーションのみならず、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』や『トゥモローランド』といった実写作品でも才能を披露している。
 アニメーションでも実写でも、シャープな語り口と卓抜したアクション・センスを高く評価されているバードにとって、『Mr.インクレディブル』はとりわけ思いの深い作品だ。ピクサー・スタジオとの縁をつないだ記念すべき作品であり、アニメーションでスーパーヒーロー・アクションをリアルに紡ぐという命題にチャレンジした作品でもある。「異質な存在なゆえに社会では苦労する」というテーマのもとに、超能力一家の奮戦ぶりを痛快に描き出してみせた。作品は大ヒットし、賞にも絡む大成功を収めたのはご存知の通り。
 バード本人も自分自身の家庭生活を反映したこの作品に深い愛着を持ち、その後の成長を描くべく本作の登場となった。ピクサー・スタジオの作品は多くの人がアイデアを出し合ってストーリーや脚本を決定するシステムなのだが、本作に関してはバードひとりにお任せ。バードの構築した“思いっきり楽しいアクション世界”で勝負している。
 本作はアメリカで劇場公開されるや、全米歴代アニメーション作品のナンバーワン週末オープニング記録を塗り替える、公開3日で1億8268万ドルを優に超える興行収入を記録。世界興行収入は既に8億6633万ドル超の数字に達している。
 しかも、評価も上々で「史上最高のアニメーション・アクション映画」という声も挙がっている。まさしくブラッド・バードが唯一無二であることを証明した仕上がりとなっている。
 声の出演も第1作から引き続きクレイグ・T・ネルソンにホリー・ハンター、サミュエル・L・ジャクソンといったベテランがみごとキャラクターになりきってみせる。日本語吹き替え版もMr.インクレディブルのボブに三浦友和、その妻イラスティガールのヘレンに黒木瞳、バリアガールのヴァイオレットに綾瀬はるかなど豪華な顔ぶれがキャスティングされている。

 驚異的なパワーが人々の生活にダメージを与えてしまうため、ヒーローたちは能力を隠して生きていた。だが、人類を脅かす敵が現われては黙っていられない。怪力を誇るMr.インクレディブルと妻の伸縮自在のイラスティガールは颯爽と敵を向かい撃つ。ふたりはなんとか街を救うことはできたが、ビルを破壊。感謝されるより、厳しく叱責されることになる。
 一家は能力を封印し、普通の生活に戻るが、Mr.インクレディブルことボブはヒーロー復活の夢を失ってはいなかった。すると超能力復活をつなぐ依頼が飛び込んでくる。それもボブではなく、破壊する恐れのないイラスティガールのヘレンに対しての仕事だった。
 落胆しながらもボブは、娘のヴァイオレット、ハイスピードで走る能力をもつダッシュ、まだ能力が判然としない赤子のジャック・ジャックの面倒をみるべく、主夫業に挑戦。悪戦苦闘、疲労困憊の日々を送ることになる。
 一方のヘレンは超能力者たちが集結するプロジェクトに参加したが、人々を操る謎の存在が現われ、恐るべき陰謀が次第に明らかになっていく。果たしてMr.インクレディブルの活躍の場は訪れるのか。ヴァイオレットやダッシュにみせ場はあるのか――。

 冒頭にMr.インクレディブルとイラスティガールの一大アクションで掴みをとり、そこからはMr.インクレディブルの涙ぐましいイクメンぶり、イラスティガールの陰謀に立ち向かう姿が並行して綴られる。赤子ジャック・ジャックが超ド級の能力を発揮するおかしさから、思春期ヴァイオレットに対応できない父の哀しみをさらりと散りばめながら、ユーモア満点、過不足ない語り口でみる者をグイグイ惹きこんでいく。日常の家庭に転がっている素材を巧みにストーリーに取り込むバードの才に脱帽したくなる。
 しかもクライマックスのスペクタクル、サスペンスは圧巻。実写映画にも引けを取らない練りこんだアイデアを盛り込み、手に汗を握るスリルで押し通す。実写であろうとアニメーションであろうと、ぐいぐいとみる者を惹きこむバードの演出力に舌を巻くばかりだ。自分なりのスーパーヒーロー・アクションをつくるという意図のもと、あくまで妥協せずにつくりあげている。さらにいえば、本作はもちろんのこと、手がけた作品はいずれもエンターテインメントとして申し分のない仕上がりとなっている。題材やジャンルの把握の仕方、揺るぎない世界観がバードの真骨頂。今後も、アニメーションばかりではなく、実写もどんどん生み出してほしいと思う。

 声の出演も手堅く、作品を盛り上げている。ストーリーの進行につれて、みる者を存分に翻弄し楽しませる。まこと幅広い世代にアピールする、一級のエンターテインメントだ。