『グレイテスト・ショーマン』は楽曲の素晴らしさがなにより際立つミュージカル大作!

『グレイテスト・ショーマン』
2月16日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/greatest-showman/

 

今、ミュージカルが熱い。ウォルト・ディズニーやピクサーのアニメーションが継承してきたミュージカルの灯は、2016年に公開された『ラ、ラ、ランド』の世界的なヒットによって、一躍、強い輝きを放つようになった。

この流れに乗って登場した本作は、映画オリジナルのミュージカルで勝負をかける。何よりの売りは、楽曲を担当したのが、『ラ、ラ、ランド』で評判をとり、ブロードウェイ・ミュージカルの「ディア・エヴァン・ハンセン」の音楽と作詞を手がけてトニー賞に輝いたコンビ、ベンジ・パセックとジャスティン・ポールということ。心に残るメロディセンスと躍動感に満ちたリズムを身上とするふたりは本作に全9曲の楽曲を提供している。いずれも溌溂とした出来栄えで、とりわけ親しみやすい主題歌「This is Me」はアカデミー歌曲賞にノミネートされている。

本作ではアメリカのショービジネスの草分け的な興行師フィニアス・テイラー・バーナムにスポットを当てている。バーナムはサーカスの礎を築いた人として知られ、それまで上流階級のものだった芝居や音楽とは一味違う、人間の好奇心をくすぐる見世物を軸にしたエンターテインメントで興行界をリードした。

このバーナムという人物を発想するきっかけとなったのが、2009年の第81回アカデミー賞の司会として奮闘するヒュー・ジャックマンの姿だったというから面白い。授賞式のプロデューサーを務めたビル・コンドンとローレンス・マークは、ジャックマンの圧倒的パフォーマンスから“史上最高のショーマン”ということばが口につき、そのことばからバーナムの存在が頭に浮かんだという。もっともアイデアが実現するまでに7年の歳月を要することになった。毀誉褒貶のあるバーナムのどの側面をクローズアップすればいいか。バーナムに焦点を当てた作品としては、1986年に製作されたバート・ランカスター主演の『バーナム~ショービズをきわめた男』(劇場未公開)があるが、ミュージカルにするとなるとハードルが高くなる。

第81回アカデミー授賞式の脚本を担当し、テレビシリーズ「SEX AND THE CITY」の製作者として知られるジェニー・ビックスが原案を書き、『シカゴ』や『ドリームガールズ』などで知られるビル・コンドンと脚色。バーナムのキャラクターを、妻や家族を愛しながらも仕事に没頭し、時に惑いもする等身大の感情の持ち主として設定した。しかも、それまで人間として扱われなかった特異体質の人や人種を“見世物”に仕立てることで、人間としての生活を確保したことをストーリーに織り込む。人間は誰もが慈しみあうものだというメッセージが謳いあげられる。

監督はミュージック・ヴィデオで実力を育んだマイケル・グレイシー。ミュージカルの臨場感、迫力はさすがの演出ぶりだ。

もちろん、俳優たちの演技はすばらしい。ヒュー・ジャックマンの実力については『レ・ミゼラブル』でも証明済みだが、本作ではさらにダイナミックかつ優美さを映像に焼きつける。アクションから人間ドラマ、ミュージカルとその懐の深さには驚かされる。

共演は『ヘアスプレー』のザック・エフロン、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のミシェル・ウィリアムズ、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソン、『スパイダーマン:ホームカミング』のゼンデイヤなどなど、多彩な顔ぶれである。

 

19世紀半ばのアメリカ、貧しい日々を送っていた少年フィニアス・テイラー・バーナムは幼馴染の裕福な少女チャリティと恋におちる。懸命に努力し、チャリティの親の反対を押し切って結婚する。

家族の幸せを願い、バーナムは野心とアイデアを武器に事業を興し、失敗を繰り返す。彼が成功を手にするのは、社会の片隅に追いやられていた特異体質の人や人種を“見世物”にしたショーをつくりあげてからだ。悲惨な環境にいた人たちを“見世物”にすることで人間としての居場所を与えたショーは、好奇心を煽り大衆の心を掴む。

一方、上流階級の人々は好奇心を刺激するショーに眉をひそめていたが、バーナムは上流階級出身のフィリップ・カーライルを相棒に、ヨーロッパで興行を行ない、イギリスのヴィクトリア女王に謁見する機会を得る。

ヨーロッパ興行中に、スウェーデンの歌姫ジェニー・リンドに魅せられたバーナムは、彼女のアメリカ公演を決意。ショーの団長の座をフィリップに譲り、リンドとともにアメリカ中をまわる。バーナムのリンドに対する情熱は、家族やショーのメンバーたちの間に亀裂を生んでしまう。さらにバーナムのもとに最大の危機が訪れる。ショーを忌み嫌う暴徒たちによって会場に火が放たれたのだ――。

 

ストーリーだけをみると波乱万丈のイメージだが、マイケル・グレイシーのドラマ部分の演出はいたってあっさりとしている。バーナムが悲惨な扱いを受けていた特異体質の人や人種を“見世物”にすることで人間としての居場所を与えたという主張は、楽曲のなかの白眉「This is Me」の歌詞とともに盛り上がるものの、ドラマとしてはさらりと触れられている程度。ストーリーはあくまでも等身大のバーナムが成功によっていかに変わっていくか。その心の移ろいが描かれる。成功を手にするまでの溌溂としたイメージ、高揚感から、ファミリーマンの彼がジェニー・リンドに出会って心を揺さぶられるあたりの切なさが、ミュージカル・シーンを核に映像に焼きつけられていく。

オープニングとエンディングに登場する「The Greatest Show」のダイナミズム。ジェニー・リンドが披露する「Never Enough」のグラマラスでセンシュアルな絶唱(歌っているのはジェニー・リンド役のレベッカ・ファーガソンではなく吹き替え。ローレン・オルレッドの名がクレジットされている)。もちろん「This is Me」のアンサンブルの高揚感はいうまでもない。ベンジ・パセックとジャスティン・ポールの魅力的な楽曲がとことん活かされた映像が用意されている。グレイシーのメリハリの利いた歌唱の捉え方、インパクトのある踊りの演出まで、本作はあくまでミュージカル・シーンを楽しむ作品なのだ。

 

作品の最大の魅力はバーナムを熱演するヒュー・ジャックマンである。全力を傾けて歌って踊って演技する。その姿にはまこと感動を覚える。これからもアクションや人間ドラマなど、幅広い活動をするだろうが、ミュージカル俳優としての立ち位置を忘れてほしくないものだ。

共演者も、フィリップ・カーライル役のザック・エフロンが達者に歌と踊りをこなせば、バーナムの妻に扮したミシェル・ウィリアムズがさりげなく美声を披露する。ミュージカル・シーンに魅力を際立たせるゼンデイヤをはじめ、髭女に扮したブロードウェイ・ミュージカル女優キアラ・セトルなど、選りすぐられた俳優陣はまことに素晴らしい。

 

ミュージカル映画の醍醐味を満喫できる仕上がり。楽曲のインパクトで画面に惹きつけられる。