『パディントン2』は愛らしいクマに心が和む、英国自慢の児童文学の映像化!

『パディントン2』
1月19日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ/木下グループ
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公式サイト:http://paddington-movie.jp/

 

ロンドンのパディントン駅で首から名札をぶら下げて途方に暮れて佇んでいたことから、パディントンと名付けられたクマの物語は世界中から愛されている。その軌跡を綴った「くまのパディントン」はBBCのカメラマンで小説家でもあったマイケル・ボンドが1958年に発表した。挿絵の愛らしさもあって(ペギー・フォートナムが描いた)、この児童小説は世界中から広く愛され、以降、20 を超える作品が刊行されている。

本作はパディントンの実写映画版の第2弾となる。第1作のヒットの余勢を駆っての登場で、ペルーからやってきたパディントンがロンドンの生活に溶け込もうとする姿が描かれる。何といっても、CGIやアニマトロニクスを駆使したパディントンの愛らしさが作品の魅力の軸になっているのだが、本作では、近年ヨーロッパの深刻な社会問題となっている“移民”のテーマがさりげなく浮かび上がってくる。第1作の脚本、監督を手がけたポール・キングが俳優でもあるサイモン・ファーナビーと組んで脚色。抱腹絶倒のエンターテインメントの端々に社会的なテーマがほの見える仕掛け。イギリスとフランスの合作というが、能天気なアメリカ映画とは一味違う骨のあるつくりとなっている。

『ハリー・ポッター』シリーズを手がけたデヴィッド・ハイマンがプロデュースを担当しているとあって、出演者もイギリスを代表する俳優が揃っている。主人公パディントンの声を『007 スペクター』のベン・ウィショーが演じるのをはじめ、テレビシリーズ「ダウントン・アビー」のヒュー・ボネヴィル、『ブルージャスミン』のサリー・ホーキンス、『アイリス』のジム・ブロードベント、『マンマ・ミーア!』のジュリー・ウォルターズなどの第1作からの出演者、さらに本作では『ノッティングヒルの恋人』のヒュー・グラント、『ジェネラル 天国は血の匂い』(劇場未公開)のブレンダン・グリーソンが参加し、個性を発揮している。

パディントンの愛らしい失敗の数々で楽しませつつ、優しさと思いやりがあればクマでもコミュニティの一員になれると語りかける。異種排除の不寛容な世界にもっとも必要なメッセージである。

 

ロンドンのウィンザーガーデンのブラウン家でペットではなく家族として暮らすクマのパディントンは、自分をロンドンに送り出した恩人、ルーシーおばさんの100歳の誕生日に、グルーバーさんのアンティーク・ショップに飾られた飛び出す絵本を贈ろうと決心する。ところがこの絵本は世界に一冊しかないという貴重なもの。パディントンは働いて、お金を貯めようと決心する。

理髪店では大失敗するものの、窓ふきは徐々に腕を上げ、もうすぐお金が貯まるというときに、アンティーク・ショップに賊が入るのを目撃。盗賊は絵本を盗み出す。パディントンの証言する犯人像がはっきりしなかったので、逆にパディントンが告発されてしまう。

裁判の結果、有罪となって、パディントンは刑務所に送られる。危ない男たちに囲まれたパディントンだったが、刑務所を仕切るボス格の料理人ナックルズが彼のつくったマーマレード・ジャムを気に入ったことで、料理人を仰せつかり、料理改革を成しとげて人気者になる。

絵本を盗んだのは、ウィンザーガーデンに住む俳優、フェニックス・ブキャナンだった。芝居のコスチュームに身を包んでいたため、正体が明らかにならなかったのだ。絵本にはブキャナンの祖父が隠した財宝の在り処が秘められていた。

ブラウン家の全員がパディントンの無罪を信じ、怪しいブキャナンを探り始める。そのことに熱中するあまり、パディントンとの面会を忘れてしまう。見捨てられたと勘違いしたパディントンはナックルズたちの誘いに乗って、脱獄を決行する。果たしてパディントンはルーシーおばさんの誕生日までに、潔白を証明することができるだろうか――。

 

温もりのある人が集まるウィンザーガーデンにもパディントンの存在を快く思わない人がいる事実を描き出した上で、パディントンの存在がこのコミュニティにかけがえのないものであることを紡ぎだす。前作でペルーからの“移熊”を寛容に受け入れる大切さを謳いあげ、本作では既にコミュニティの一員となったパディントンの試練を紡いでいる。図らずも犯罪者の汚名を着ることになっても、礼儀正しさと思いやり、優しさで周囲を変えていくパディントンの姿は、移民排斥に傾きがちな風潮に対する風刺にもなっている。

もちろん、こうしたメッセージは心優しきクマのアドベンチャーをいささかも阻害しない。あくまでも心優しきクマは素直に状況に対処し、自らの存在価値を世に知らしめるのだ。刑務所生活、脱獄、真犯人捜し、宝を秘めた絵本の謎解きまで、最後の最後まで見る者の興味を引っ張る。盛り沢山の脚本をスピーディに綴るポール・キングの軽快な演出に拍手を送りたくなる。『ハリー・ポッター』シリーズと同様に、ファミリーピクチャーであっても存分に知恵と工夫を凝らし、面白い作品に仕上げようという意図が映像に漲っている。

 

俳優たちの頑張りも嬉しい。いつもは心優しきロマンチック・ヒーローを演じるヒュー・グラントが小狡い初老の俳優フェニックス・ブキャナンを怪演すれば、心根の優しい乱暴者ナックルズを演じるブレンダン・グリーソンもまさに適演。とりわけ老いたグラントの煤けたイメージにはペーソスを禁じ得ない。こういう役も演じられること証明したかったのか。こういう役ばかりを演じる破目にならないことを祈るばかりだ。それぐらいはまっている。

 

日本語版では松坂桃李がパディントン、斎藤工がブキャナン役に起用されている。初春にふさわしく、明るく楽しい仕上がりである。