『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は日本を舞台にした、心も弾むストップモーション・アニメーション!

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
11月18日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ギャガ GAGA★
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公式サイト:http://gaga.ne.jp/kubo/

 

日本のアニメーションが世界に冠たる存在であることは、宮崎駿をはじめとする監督たちへの注目度の高さからも伺われる。各国のアニメーション作家たちは日本の作品の影響を受け、演出や映像、作劇をグングン吸収している。ある意味で、日本人よりもはるかに日本アニメーションを評価している。

本作は『コララインとボタンの魔女 3D』や『パラノーマン ブライス・ホローの謎』などのストップモーション・アニメーションで知られるアメリカのスタジオ、ライカが製作した、昔の日本を舞台にした冒険ファンタジー。三味線と折り紙を操る片目の少年クボを中心にストーリーが展開する。

『レジェンド・オブ・ゾロ』のプロデュースに名を連ねた過去を持つマーク・ハイムズが『コララインとボタンの魔女 3D』のキャラクター・デザインを務めたシャノン・ティンドルと原案を書き上げ、同じく『コララインとボタンの魔女 3D』のストーリーをまとめたクリス・バトラーとハイムズが脚本に仕上げた。なにより感心させられるのは日本文化に対する勉強ぶりだ。

主人公の名前クボが、シャノン・ティンドルの日本人の友人の名から採られている点はご愛敬だが、主人公を隻眼にしたのは伊達政宗や柳生十兵衛に敬意を表して設定。キャラクターのイメージや背景は葛飾北斎や斎藤清などの版画を参考にしたという。さらにイッセイ・ミヤケの服のデザインからプリーツや折り方を衣装デザインに使用し、日本のドキュメンタリー映画で明るさなどを学んだ。黒澤明の『七人の侍』から、わび、さびの美意識を製作の指針にしたというから徹底している。

おまけに本作の監督に抜擢されたトラヴィス・ナイトは8歳のときに父親と日本にやってきて以来、訪日を重ねて、日本の文化に傾倒してきた。黒澤明作品や宮崎駿作品の影響を受けたと語るナイトは、日本に対する知識をもとにして、単なる日本文化の複製ではない、自分たちの解釈による日本を映像化している。まさにライカのスタッフ、監督のナイトが思い描いた“日本”がここにある。

印象的なキャラクターたちに生命を吹き込む声の出演はまことに豪華だ。クボには『カリフォルニア・ダウン』などの子役アート・パーキンソンを配し、さらに『アトミック・ブロンド』のシャリーズ・セロン、『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモートでおなじみのレイフ・ファインズ、『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラー、『スター・トレック』のジョージ・タケイ、『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー主演男優賞を手中に収めたマシュー・マコノヒーまで登場する。

日本語吹き替え版は「クレヨンしんちゃん」シリーズのしんちゃんの声で知られる矢島晶子を主人公に、田中敦子、羽佐間道夫などのベテラン声優陣に加え、音楽界からピエール瀧に川栄李奈もキャスティングされている。

 

三味線の音色で折り紙に生命を与え、操るという力を持った少年、クボは最果ての地で母とひっそりと暮らしていた。父は闇の魔力を持つ祖父からクボを助けようとして生命を落とし、クボも片目を失った。

祖父から逃れたクボと母の前に、さらなる刺客が現われた。母は自分の身を犠牲にしてクボを逃す。逃げのびたクボは面倒見のいいサル、弓の名手のクワガタと出会う。多くの危機に見舞われながら旅を続けるクボは執拗に狙われる理由が、かつての母の行動にあったことを知る。

やがてクボは祖父である“月の帝”と対面し、すべての謎が明らかとなった――。

 

まず感心させられるのは、日本の文化や習慣、歴史に対する知識をとことん調査した上で、自分たちがイメージする“かつての日本”を構築していることだ。日本の時代劇の模倣ではなく、自分たちが咀嚼した異世界の日本といえばいいか。そうした舞台で繰り広げられるストーリーはイマジネーションにあふれ、情がこもっている。

ストーリーやキャラクターに対して日本的かどうかをあげつらうのは大人げない。監督トラヴィス・ナイトをはじめとするスタッフがいかに日本に傾倒していて、その文化に対して熱い尊敬の念を抱いているかが、映像からひしひしと伝わってくる。日本の水墨画や浮世絵の様式を取り入れながら、自由な発想で動く映像に仕立てたことに拍手を送りたくなる。

ナイトは、宮崎駿がヨーロッパと思われる世界を舞台に作品を生み出したように、日本を舞台にした冒険活劇を製作したとコメントしている。幼いときから日本に触れてきた彼の思いが本作にてんめんと込められているのだ。

ストーリー的には家族の確執といえばいいか。運命に縛られた少年、クボが危機の日々のなかに父や母の思いを知り、成長する展開は見る者の心に好もしく迫ってくる。クボやサル、クワガタなどのキャラクターに対して、初めは奇異な印象を抱くかもしれないが、次第に惹きつけられ、かわいいとすら思えてくる。とりわけクボの、隻眼で三味線を抱えたヒーローぶりがなんとも愛おしい。

 

キャラクターに生命を吹き込む声の出演者がまた素晴らしい。クボ役のアート・パーキンソンは達者だし、母に扮したシャリーズ・セロンも情のこもった演技を披露している。お供になるクワガタ役のマシュー・マコノヒーの軽快さ、月の帝に扮したレイフ・ファインズの迫力、刺客役のルーニー・マーラーまで、それぞれのキャラクターにみごとな陰影を付加している。実写映画顔負けの豪華なキャスティングが奏功したわけだ。

 

溢れるばかりの日本愛の傑作。アカデミー賞にノミネートされ、アニー賞をはじめ各国の映画賞に輝いたことも頷ける。心も弾む、素敵な仕上がりである。