『ブレードランナー 2049』はカルト名作の続編にして、2017年屈指の仕上がりのSF大作!!

『ブレードランナー 2049』
10月27日(金)より、TOHOシネマズ日本橋、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.bladerunner2049.jp/

 

多くの映画ファンの心に焼き付いている作品の続編を、35年の期間を経て製作し、ファンそれぞれのイメージを崩すことなく第1作に勝るとも劣らない映像世界を構築する――。

この難題に挑み、みごと応えたのが『ブレードランナー』の続編、『ブレードランナー2049』である。

 

思い返せば、1982年に製作された『ブレードランナー』は画期的だった。フィリップ・K・ディックの傑作小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作に、俳優出身のハンプトン・ファンチャーと、後に『許されざる者』を生み出したデヴィッド・ピープルズが脚色。『エイリアン』で世界的な注目を集めたリドリー・スコットが監督に抜擢するという意欲的な布陣。しかも工業デザイナーして名高いシド・ミードに未来世界のデザインを任せ、『未知との遭遇』などで知られる特撮のダグラス・トランブルを擁して、こだわりぬいた作品に仕上げた。

音楽は『炎のランナー』でセンセーションを巻き起こしたヴァンゲリスで、ハリソン・フォードとルトガー・ハウアー、ショーン・ヤングが競演するという、この上なく新鮮なキャスティングで勝負した『ブレードランナー』は「SFの概念を変えた」とか、「限りなく審美的で未来論的作品」と称えられ、大ヒットはしなかったものの熱狂的なファンを生んだのはご存知の通りだ。

 

これだけの作品に続編をつくるという発想は自信がないとできない。うるさいファンが世界中に控えているし、まして大ヒット作品でもないわけで、続編の登場までに長い年月を要した理由も分かる。この続編づくりに情熱を傾けたのは『クルーゾー警部』を監督したことでも知られるプロデューサーのバッド・ヨーキン。彼が『トランセンデンス』のプロデューサーであるアンドリュー・A・コソーヴとパートナーのブロデリック・ジョンソンに企画を持ち込んだのが本作のはじまりである(残念ながらヨーキンは本作の完成を待たずに他界したが、製作に名前はクレジットされている)。

コソーヴとジョンソンはリドリー・スコットに製作総指揮を依頼。スコットは依頼を快諾するや、第1作の脚本を担当したハンプトン・フィンチャーと話し、彼の書いた短編小説をもとに、続編づくりに乗り出した。『LOGAN/ローガン』の脚本や『エイリアン:コヴェナント』の原案を書いたマイケル・グリーンがプロジェクトに参加し、タイトなストーリーが構築されるに至った。

監督に起用されたドゥニ・ヴィルヌーヴはコソーヴたちと『プリズナーズ』でも組んでいたため、気心が知れていた。ヴィルヌーヴ自身、第1作の熱烈なファンだったため、スコットがヴィルヌーヴの監督を認めることが条件だったという。スコットは好きなように演出することを認め、いつでも相談に乗ると応えたという。

かくてお墨付きをもらったヴィルヌーヴは、『007 スペクター』を手がけたプロダクションデザイナーのデニス・ガスナー、『プリズナーズ』や『ボーダーライン』で組んだ撮影監督のロジャー・ディーキンスとともに、第1作の時代から30年後の未来世界をつくりあげていった。製作の折々にスコットやシド・ミードの助言があったというが、第1作と全く遜色のない、目を見張るような鮮烈で情緒に富んだ映像世界が生み出されている。

出演者も『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴアスリングに、第1作の主演のハリソン・フォード。さらに『スクランブル』のアナ・デ・アルマス、『ワンダーウーマン』のロビン・ライト、『鑑定士と顔のない依頼人』のシルヴィア・フークス、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のデイヴ・バウティスタ、『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャレッド・レトなどなど、役柄にふさわしい個性に富んだ俳優が選りすぐられている。

 

第1作から30年後、2049年のロサンゼルスは人間と見分けのつかない人造人間(レプリカント)が労働力として社会を支えている。ブレードランナーは反抗するレプリカントを“解任する”のが業務。そのひとり、Kは黙々と業務をこなす日々を送っている。

ある日、Kが“解任”したレプリカントの農場から、30年前のもと思われるレプリカントの骨が発見された。その骨は人間とレプリカントの関係を崩壊させかねない危険性を秘めていた。LAPDの上司ジョシはKに、骨のルーツを探り危険分子を“解任”するように命じる。

Kは骨とともに残された毛髪を、旧型レプリカントのデータと照合するため、タイレル社から業務を引き継いだウォレス社に赴く。そこで明らかになったのは、30年前に姿を消したブレードランナーのデッカードと旧型レプリカント・レイチェルのデータ音声だった。

Kは捜査を続けるうちに、いつものように淡々と業務を遂行できなくなっていく。捜査によって明らかになった事実が、自らのアイデンティティに関わってきたからだ。突き動かされたように捜査を続けるKはデッカードを求めてラスベガスに向かう。その後をウォレス社の最新レプリカント・ラブが追う。ウォレス社にとって、今度の事件は他人に知られたくない真相を秘めていたのだ――。

 

まこと、ヴィルヌーヴをはじめとするスタッフの頑張りには脱帽したくなる。第1作を愛し、完璧にその世界の魅力を分析したうえで、さらに新鮮味を盛り込んだ映像世界に仕立てているのだ。21世紀になってからイメージした2049年は、地球温暖化で水位が上がり、激しい雷雨と雪が降りしきる世界。海岸部は水没し、内陸は砂漠化している。ロサンゼルスは相変わらず日本語があるものの、ハングルや中国語も映り込む。こうしたものは現在を反映した未来世界の典型といえるか。シド・ミードに教えを乞うたというラスベガスのシーンの荒涼とした、切なさ漂う風景の素晴らしさをはじめとして、どのシーンもディーキンスが絵画のように美しく紡ぎだしている。

ストーリーも第1作で残した謎にきっちりと応えている。ブレードランナーのデッカードとレプリカント・レイチェルのその後はどうなったのか。第1作以上に探偵ドラマ的要素を強調しつつ、「人間とレプリカントを分かつものは何か」を問いかけ、Kのアイデンティティを探る旅に収斂させている。理詰めに証拠を集め、類推していくKの捜査とともに、未来世界を覆う陰謀が明らかになり、Kの哀しい記憶の謎も解き明かされる。謎は見てのお楽しみだから詳細は明かせないが、展開自体がロジカルにしっかりと構築されている。

ヴィルヌーヴの演出はいささかのぶれもなく、力強い。『メッセージ』も感心させられたが、本作の方がはるかに個性を打ち出している。フィルムノワール的世界のなかにリアルな手応えを盛り込み、なによりもタイトな語り口に徹する姿勢が際立っている。基本的にはKの成長物語といえばいいのか。

第1作同様に、愛の物語としての側面も素敵だ。本作ではKの相手になるのはホログラフィのAI、ジョイ。実体を持たない彼女がKを愛し、心の底から尽くす。実体を持たないゆえに、彼女が選んだ行為は切なく心に迫ってくる。第1作のレイチェルよりも、はるかに儚く、情のある存在。ジョイが作品に加わったことで情緒が画面に焼きつき、いっそう魅力が倍増している。

謎解き、未来論、アイデンティティ探しラヴストーリーなど、あらゆる要素を盛り込みながら、過不足なく2時間43分にまとめたヴィルヌーヴの手腕は、まこと称賛に値する。

 

出演者ではKに扮したライアン・ゴスリングの無表情がいい。感情に動かされないブレードランナーとしての態度を守りながら、ふと垣間見せる揺らぎ。彼にとっては『ドライヴ』のキャラクターに近いハードボイルドで切ないキャラクターである。

ハリソン・フォードは年老いたデッカードをそつなく演じているが、注目はKの相手役AIのジョイに扮したアナ・デ・アルマスだ。これまでにも『スクランブル』をはじめ幾つもの作品に顔を出しているのだが、このキャラクターが秀抜。切なくて愛らしくて、哀しい。いっぺんにファンになってしまう美貌の持ち主だ。

 

第1作の音楽を担当したヴァンゲリスに目配せしたハンス・ジマーの音楽も素晴らしいし、映像美、世界観、壮大なストーリーまで、どこをとっても拍手を送りたくなる。ラストシーンの切なさは思わず胸が熱くなる。間違いなく、2017年屈指の傑作だ。