『スパイダーマン:ホームカミング』は新たなイメージで勝負したヒーローの成長物語!

『スパイダーマン:ホームカミング』
8月11日(金・祝)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©Marvel Studios 2017. ©2017 CTMG. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.spiderman-movie.jp/

 

アメリカン・コミックの雄マーベルの映像戦略は大きな広がりを見せている。コミックで高い認知を誇るヒーローたちの実写映画を製作するなかで、それぞれのヒーローが同じ世界観を共有し、ときにクロスオーバー、あるいは共存する発想を打ち出したのだ。この発想は“マーベル・シネマティック・ユニバース”と名付けられ、アイアンマンやキャプテン・アメリカ、ソーといったヒーローたちが一堂に介する『アベンジャーズ』が実現した。以降はマーベルのヒーロー映画にほかのヒーローたちが競演することは珍しくなくなった。

“マーベル・シネマティック・ユニバース”はさらにその世界を拡大していき、これまで独立してシリーズを形成していたスパイダーマンも参加することになった。すでに2016年公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で新スパイダーマンは登場しているが、彼が軸となるのは本作が初めてとなる。

スパイダーマンといえば、コミック・ファンのサム・ライミがトビー・マグワイア主演で生み出した原作のイメージに忠実な『スパイダーマン』3部作があまりに有名、続いて生み出されたマーク・ウェブ監督とアンドリュー・ガーフィールド主演の青春映画的エモーションに満ちた『アメイジング・スパイダーマン』2部作も忘れがたい。

本作は2度目のリブート(再始動)になるが、今回の前提は“マーベル・シネマティック・ユニバース”の一員であるということ。他のヒーローたちと一線を画す個性を付加しなくてはならない。まず『モンスター上司』などで知られるジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーが原案をつくり、『COP CAR コップ・カー』で“最も優秀な次世代の監督”と称えられたジョン・ワッツ、同作の脚本を担当したクリストファー・フォード、さらに『レゴバットマン ザ・ムービー』のクリス・マッケナとエリック・ソマーズが参加して、脚本を練りこんで完成させた。監督はワッツが抜擢されている。

本作では、主人公ピーター・パーカーはまだまだ未熟な存在、なんと15歳という設定となっている。好きな女の子もいれば、親友と悪ふざけもする、ごく普通の学園生活を送りながら、アイアンマンに憧れ、一刻も早くアベンジャーズの一員になることを夢見ている。ヒーローになるべく悪を成敗するといってもまだ小者しか相手にできない。軽薄だし軽率なところもある高校生。大人にもなりきれない微妙な年齢だ。

こんなパーカーががむしゃらにヒーローになるべく突き進む姿が紡がれていく。ヒーロー道の導師になるのはアイアンマンことトニー・スタークだ。ユーモアを交えながら、時に厳しくパーカーを指導する。まさに本作ではヒーローになるための通過儀礼が描かれるのだ。これまでのスパイダーマンは孤高の戦いを強いられてきたが、本作のスパイダーマンは親しい仲間の協力もあれば、頼りになる師もいる。まこと新しいイメージのヒーローに成り代わっている。ワッツの演出はこうした設定を踏まえて軽快にしてダイナミック。等身大ヒーローの活躍ぶりをヴィヴィッドに焼きつけている。

主人公パーカーに抜擢されたのは1996年イギリス生まれのトム・ホランド。『インポッシブル』や『白鯨との闘い』に出演した彼は、スパイダーマンを演じることが長年の夢だったとコメントしている。体操やパルクール(フランス発祥のエクストリームスポーツで走る・跳ぶ・登るなど動作を駆使する)を披露し、身軽さをアピールすることで役を掴んだ。

ホランドを囲んで、『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』マイケル・キートンが仇役のバルチャー役で凄味をみせ、『いとこのビニー』のマリサ・トメイが主人公と暮らすメイおばさんを演じる。

もちろんトニー・スターク役のロバート・ダウニーJr.、スタークの運転手役ハッピー役のジョン・ファヴローは『アイアンマン』シリーズそのまま。加えて歌手やモデルとして活躍するゼンデイヤ、ハワイ出身のジェイコブ・バタロン、テレビドラマで注目されたローラ・ハリアーなど、個性豊かな若手俳優も結集している。

 

ニューヨークのアベンジャーズの戦いで、倒壊したビルの残骸を回収していたエイドリアン・トゥームスはトニー・スタークの会社に仕事を奪われてしまう。残骸は宝の山だっただけに、彼はスタークに大いなる恨みを抱く。

それから8年、ベルリンでアベンジャーズの戦いに参加したピーター・パーカーはニューヨークのクイーンズの街をパトロールしていた。スタークから渡されたスーツを着て、彼はアベンジャーズの正式メンバーになるべく、スタークの側近のハッピーに報告を欠かさない毎日を送っていたが、ハイテク武器を持つ強盗に遭遇。近隣を巻き込む爆発を起こし、親友のネッドにはスパイダーマンであることがバレてしまう。

パーカーもメイおばさんと暮らすふつうの高校生活を送っている。好きな女の子リズの家のパーティにネッドと参加した夜、不審な爆発に気づいたパーカーはハイテク武器の取引現場を目撃するが、巨大な翼の怪人バルチャーに変貌したトゥームスが現われ、彼を空中から湖に叩き落す。危機を救ってくれたのはアイアンマンことスタークだった。

スタークの忠告にも耳を傾けず、逸る心のままに行動するパーカーは、取引現場で手がかりを見出すが、この行動がワシントンDCの全米学力コンテストに出席したネッドやリズを危機に陥れることになる――。

 

ここからさらにパーカーの試練が描かれる。スタークに叱責され、スーツを取り上げられても、パーカーはヒーローとしての責任を自覚し、私欲を捨てて悪に立ち向かうことができるか。ワッツの語り口は軽快で、グイグイとみる者を惹きこんでいく。もともとスパイダーマンのキャラクター自身が等身大の存在なのだが、本作ではさらに共感度が高い。高校生ならありがちの失敗もすれば、無邪気ゆえの危うさもある。だからこそ、パーカーの成長が爽やかに感じられるのだ。

もちろん、スパイダーマンの見せ場は、ワシントンDCのモニュメントを駆け上るシーンから飛行機にしがみつくシーン、真っ二つに裂かれたフェリーを救おうとするシーンなど、ふんだんに用意されている。本作はこうしたスペクタクル、サスペンスと、等身大の青春ドラマが巧みに織り込まれているといえばいいか。ワッツのメリハリの利いた演出が光る。長編劇映画は3作目だが、今後の活躍が楽しみになってくる。毎度ながら、マーベルの監督起用は的確である。

 

なによりキャスティングも作品の魅力を高めている。主演に抜擢されたトム・ホランドはどこまでも頼りなさそうな容姿と身軽な動作がキャラクターにぴったりはまって、演技も過不足ない。スターク役のロバート・ダウニーJr.との軽妙なやり取りも楽しく、ネッド役のジェイコブ・バタロンとの高校生っぽいはしゃぎぶりも違和感がない。現在、21歳。共感度の高いキャラクターはスター性十分だ。

一方、仇役バルチャーを演じるマイケル・キートンはかつて『バットマン』を演じたことを考えると万感の思いだが、単なる悪役ではなく説得力のあるキャラクターに仕上げているのはさすがといいたくなる。スタークのような金持ちに怨念を抱く庶民派のイメージをにじませる。『スポットライト 世紀のスクープ』や『ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密』などの話題作に出演して、再び脚光を浴びつつある。次はどんなキャラクターをみせてくれるだろうか。

 

夏にふさわしい、理屈抜きに楽しめる作品。これからもマーベル印の映画からは目が離せない。