『美女と野獣』は1991年の名作アニメーション実写化した絢爛豪華なミュージカル・ファンタジー!

『美女と野獣』
4月21日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
©2016 Disney Enterprises inc. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/beautyandbeast.html

 

 1991年に登場したウィルト・ディズニー・スタジオのアニメーション『美女と野獣』は全世界で大ヒットし、第64回アカデミー賞でアニメーションとしては初めて作品賞にノミネートされるという快挙を成し遂げた。惜しくも受賞はならなかったが、作曲賞と主題歌賞に輝き、ミュージカルとしての質の高さを証明することになった。この作品は後に舞台化され、ブロードウェイでもロングランを重ねたばかりか、日本をはじめ各国で上演されている。

『モアナと伝説の海』のときにも書いたが、まことミュージカルの魅力を継承し続けたのはディズニーのアニメーション作品といっても過言ではない。キュートなキャラクターが自分の心の裡を親しみやすい楽曲で歌い上げる。こうしたシーンは『アナと雪の女王』をはじめ、多くのディズニー作品でみることができるが、観客はミュージカルと意識しないで楽しんでいる。実写のミュージカルは突然、歌いだしたりするので違和感があるという人もアニメーションの誇張された世界では受け入れやすいということか。

 そうした流れのなかで、『シンデレラ』を筆頭に、ディズニーの名作アニメーションを実写化する機運が高まり、誰からも愛された真打として登場するのが『美女と野獣』である。

 このストーリーは、18世紀にガブリエル=スザンヌ・ド・ヴィルヌーヴによって書かれ、ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモンがストーリーを短縮して広く知らしめたといわれている。ジャン・コクトーが1946年にジャン・マレー主演で映画化した同名作はあまりにも有名で、何度も映像化されてきた歴史がある。

 しかし、本作はあくまでも1991年のアニメーションの実写化。アニメーションで味わった魅惑の世界をいかに実写で表現するかが命題となる。あくまでもアニメーションの世界を継承しながら、現代的なメッセージも盛り込む戦略だ。脚本を担当したのは『ウォールフラワー』のスティーヴン・チョボスキーと、『スノーホワイト/氷の王国』のエヴァン・スピリオトポウロス。ふたりは“人と違う”ことを輝きに変えるヒロイン、ベルと、“人と違う”外見にとらわれる野獣を対比しながら、自分の輝きを信じようと謳いあげる。

 監督は『ドリームガールズ』を手がけたビル・コンドン。オリジナルのアニメーションを高く評価しているコンドンは、アメリカ映画界が誇る実写のミュージカルを蘇らせる絶好の機会と考えて、このプロジェクトに参加した。1991年の頃にはアニメーションでしか表現できなかったものが、特撮技術の進歩により実写でも描けるようになったこともこの企画を後押しした。

 なによりも作曲のアラン・メンケンと作詞のハワード・アシュマンの手になる「朝の風景」や「美女と野獣」をはじめとするオリジナルの名曲の数々に加えて、メンケンの作曲、ティム・ライスの作詞になる新曲が3曲、挿入されている(アシュマンは1991年に逝去)。

 しかも出演者が心憎いキャスティングだ。ヒロインのベルには『ハリー・ポッター』シリーズのエマ・ワトソンで、野獣にはテレビシリーズ「ダウントン・アビー」で注目されたダン・スティーヴンス。このフレッシュなコンビに加えて、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』でアカデミー助演男優賞に輝いたケヴィン・クライン、『ドラキュラZERO』のルーク・エヴァンス、『アナと雪の女王』でオラフの声を演じたジョシュ・ギャッド。さらに『T2 トレインスポッティング』のユワン・マクレガー、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのイアン・マッケラン、『日の名残り』のエマ・トンプソン、『プラダを着た悪魔』のスタンリー・トゥッチなどなど、個性に溢れた実力派俳優が一堂に介している。

 

 かつて放埓な日々を食っていた傲慢な王子が魔女によって野獣の容姿に変えられてしまう。呪いを解くためには、魔女の残したバラの花が散る前に王子が誰かを愛し、誰かも王子を愛さなくてはいけない。忌まわしい容姿の王子は絶望のなかで日々を過ごしていた。

 一方、田舎の村で父と生活するベルは読書家で進歩的な考えの持ち主。言い寄る男もいるが、村人からは変わり者とみられていた。

 ある日、父が帰ってこないので、ベルは森に入り、野獣の城で囚われている父を発見する。野獣の姿におののきながらも、父の身代わりとなって城に留まることを申し出る。呪いで燭台やティーポット、置時計に変えられてしまった家臣たちは、ベルに優しく接する。ベルはこれからどうなるだろうか――。

 

 ストーリーを語るまでもなく、オリジナルのアニメーションのままならハッピーエンドは約束されているから、見る者は安心して、ゴージャスな映像世界に浸ることができる。本作ではベルが生まれた経緯が語られるなど、よりキャラクターの造形に深みを持たせているのが嬉しい。コンドンは冒頭に野獣となった王子のエピソードを用意した後は、まこと往年のミュージカル映画をほうふつとさせる華やかなヴィジュアルで紡いでいく。

 歌唱シーンはどこまでもミュージカルらしく朗々と歌い上げるし、ロマンティックなシーンは砂糖菓子のように甘く、ゴージャスに描きぬく。もちろん、あの有名な野獣とベルのダンスシーンもあくまでもアニメーションに近く再現される。

 凝りぬいた意匠の映像とともに、名曲の数々が披露されていく。コンドンがミュージカル映画の王道を目指したことがきっちりと映像に反映されているのだ。ゴージャスな衣装と美術のなかで、夢見るようなストーリーが繰り広げられていく。ロマンティックでユーモアもあればサスペンスも盛り込まれ、クライマックスのスペクタクルでは手に汗を握る。アメリカ映画が培ったエンターテインメントのあらゆる要素が盛り込まれている。

 

 出演者もエマ・ワトソンが魅力的にヒロインを演じれば、ケヴィン・クラインは父親を軽妙に演じる。ルーク・エヴァンスは唯一の敵役をアグレッシヴに表現。ジョシュ・ギャッドは敵役の子分役で笑いを誘い、ユワン・マクレガー、イアン・マッケラン、エマ・トンプソン、スタンリー・トゥッチが家財道具に変えられたしまった家臣を演じている誰がどのキャラクターを演じているかは最後に明らかにされるが、推理しながら見るのも一興だ。

 

 全米では驚異的なヒットを飾ったというのも納得がいく。まこと最初から最後まで豪華絢爛。これぞミュージカル映画の鑑だ。