『グレートウォール』は理屈抜き、圧巻のバトルの連続で紡ぐアクション・ファンタジー!

『グレートウォール』
4月14日(金)より、TOHOシネマズ日本橋ほか、全国ロードショー
配給:東宝東和
© Universal Pictures
公式サイト:http://greatwall-movie.jp/

 

“グレートウォール”、つまり「万里の長城」というタイトル、監督がチャン・イーモウと聞けば、誰しもが絢爛たる歴史絵巻を想像するに違いない。こうした予見をもって本作を見ると、みごとに期待は裏切られる。

 冒頭から最後まで、アクション、見せ場の綴れ織り。有無を言わせず見る者をアクション・ファンタジーの世界に引きずり込む。理屈抜き、まさにエンターテインメントの塊のような作品なのだ。

 こうした作品をチャン・イーモウがつくったことに驚きながら、よくよくスタッフのリストをみると、『ワールド・ウォーZ』のマックス・ブルックスが原案者にクレジットされている。他にも原案には『ラスト サムライ』の監督エドワード・ズウィックと製作者マーシャル・ハースコヴィッツの名があることで、本作の企画はアメリカで生まれたことが分かる。

 近年のアメリカ映画は膨大な映画人口を誇る中国に目配せをしたものが多いが、本作を製作したレジェンダリー・ピクチャーズは2016年に中国の大連万達グループに買収された経緯があり、中国を舞台にした本作はアメリカ、中国の映画人が結集した内容にする必要があった。そこで世界的に知られたチャン・イーモウを招いたと思われる。

 チャン・イーモウについてはもはや紹介するまでもない。撮影監督としてキャリアをはじめ、1987年の『紅いコーリャン』で監督デビュー。この作品はベルリン国際映画祭金熊賞に輝き、一躍その名を世界に知らしめた。以来、『菊豆(チュイトウ)』や『活きる』、『あの子を探して』に『初恋のきた道』などなど、時代に翻弄されても健気に生きる庶民の姿を描き出した。一方で『テラコッタ・ウォリア/秦俑』では俳優としての才能を示した。

 中国政府の開放政策が定着するにつれ、それまでの反体制的メッセージは影を潜め、『HERO』や『LOVERS』と、エンターテインメント大作でも才能を発揮した。高倉健主演の『単騎、千里を走る』を手がけ、北京オリンピックの開会式と閉会式の演出を担当したことも記憶に新しい。チャン・イーモウは本作でハリウッド・デビューを果たしたことになるが、演出の幅広さを証明するがごとく、とことんエンターテインメントに徹してみせる。

 原案を活かした脚本は『魔法使いの弟子』のカルロ・バーナードとダグ・ミロがまとめ、『ボーン・アイデンティティ』などで知られるトニー・ギルロイがきっちりと仕上げた。この脚本をもとに、チャン・イーモウがノンストップ、見せ場の連続で疾走してみせる。

 出演者が豪華だ。“ジェイソン・ボーン”シリーズでアクションスターの貌をもったマット・デイモンを筆頭に、『ポリス・ストーリー/レジェンド』のジン・ティエン、テレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のペドロ・パスカルに、『プラトーン』のウィレム・デフォー。『インファナル・アフェア』をはじめ、数多くの作品に主演し、香港を代表するスーパースターと称えられるアンディ・ラウに加え、中国のポップグループEXOの元メンバー、ルハンに、アイドルグループTFBOYSのワン・ジュンカイ、『疾風スプリンター』のエディ・ポンまで、まさにあらゆるジャンルの人気者が結集している。

 

 金と名声を求めて、シルクロードの中国国境まで流れてきた一行は馬賊の襲撃を受け、謎の獣に襲われて、生き残ったのはウィリアムとトバールのふたりだけ。切り落とした謎の獣の腕をもって馬を走らせるうち、万里の長城が現われた。

 頂上防衛の命を受けている軍隊、禁軍に降伏したふたりは、獣の腕をみたワンに生命を救われる。戦略をつかさどるワンは、謎の獣は60年に一度、大量に地上に現れては人類を襲う伝説の怪物、饕餮(とうてつ)で、万里の長城は彼らの侵入を防ぐために建設されたというのだ。

 饕餮(とうてつ)の襲撃は始まろうとしていた。中国全土から戦士たちが集結しているなか、最初は禁軍から黒色火薬を奪おうと考えていたウィリアムだったが、饕餮(とうてつ)の凄まじい大群を前にしたとき、彼の戦士としての魂が目覚める。

ここに万里の長城の攻防、饕餮(とうてつ)との凄まじいバトルが開始された――。

 

 全編、ヴィジュアル・インパクトに富んだシーンの連続と形容すればいいか。饕餮(とうてつ)の襲来をいかに食い止めるかというシンプルなストーリーラインに、あの手この手の戦闘が繰り広げられていく。カラフルな鎧の禁軍が繰り出す城壁からの戦闘は奇想に富んでいるが、膨大な数の敵の前では成す術がない。チャン・イーモウはひたすら映像で戦闘の激しさ、凄まじさ浮かび上がらせ、ことばの説明は最小限に留める。見れば一目瞭然の映像世界に徹しようとの思いだ。

 ウィリアムと女性司令官との恋、トバールとの友情なども織り込まれるが、どれも深い入りはしない。ウィリアムのヒロイズムを彩るだけのものだ。彼が禁軍の先頭に立って、グロテスクな容貌の饕餮(とうてつ)を殺しまくる。映画はその勇猛果敢さをひたすらカメラに収めていく。

 それにしても饕餮(とうてつ)の数は半端ではない。その戦いのシーンをみるうち、ふと『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』の合戦シーンを思い起こした。本作も同じWETAワークショップがからんでいることを考えればそれも当然か。膨大な数の人間と饕餮(とうてつ)が戦い抜くモブシーンはまさに圧巻の仕上がりである。

 

 本作は万里の長城の雄姿にイメージを膨らませてつくりあげた、モンスター映画といいたくなる。饕餮(とうてつ)の醜悪な容貌の前では、ゴージャスなキャスティングもかすみがちながら、デイモンをはじめそれぞれが過不足なく演じている。

 

 チャン・イーモウの生み出したバトル・アクション大作。ここまでシンプルに最後まで疾走すれば、文句を言うのも野暮というもの。ひたすら面白くしようと、趣向を凝らした作品といっておこう。