『モアナと伝説の海』は、ウォルト・ディズニー・スタジオが得意の少女の冒険成長ミュージカル!

『モアナと伝説の海』
3月10日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/moana.html

 

 

 現在、ミュージカル映画の復活とばかりに『ラ・ラ・ランド』が話題をさらっているが、よくよく考えてみると、ミュージカル映画の灯を保ち続けたのはディズニーの作品群だった。『白雪姫』や『シンデレラ』の昔から、『美女と野獣』や『アラジン』、『アナと雪の女王』まで、愛らしいキャラクターたちが歌い、踊って、画面で躍動した。

 アニメーションが誇張に満ちた世界なればこそ、突然、登場人物が歌うことも許容できる。まして日本人はアニメーションに慣れているとあって、ミュージカルでもあまり拒否反応が起きないと聞く。ディズニー・アニメーションがヒットしやすいのも納得がいく。実際、『アナと雪の女王』が255億円の興行収入、昨年の『ズートピア』が76億3千万円の興行収入を挙げている。今やCGアニメーションのパイオニア、ディズニー傘下のピクサー・スタジオを凌ぐ躍進ぶりなのだ。

 この勢いをさらに加速すべく、登場したのが本作である。全米で公開され、現時点で国内だけで2億4510万ドル超、世界の興行収入を合わせると5億7488万ドル超を稼ぎ出している。心に沁み入る歌の数々と胸躍る冒険、大海原と緑なす島々の景観に酔いしれる物語世界を日本の観客はどのように評価するだろうか。

 監督を務めるのは『リトル・マーメイド/人魚姫』や『アラジン』を手がけた重鎮コンビ、ジョン・マスカーとロン・クレメンツ(共同監督として『ベイマックス』のドン・ホールとクリス・ウィリアムズの名もクレジットされている)。そもそもマスカーとクレメンツが太平洋の島々を舞台にした作品をつくりたいと考えたのがきっかけで、オセアニア文化のリサーチをはじめ、神話や伝承をもとにストーリー化したという。ストーリーを練ったのはマスカー、クレメンツに加え、ホールとウィリアムズ、さらに『ディズニーネイチャー クマの親子の物語』のナレーション・コンサルタントを担当したパメラ・リボン、ハワイで育ったアーロンとジョーダンのカンデル兄弟などがアイデアを出し合い、最終的に『ズートピア』の脚本・共同監督ジャレッド・ブッシュが脚本に仕上げた。

 音楽にも才能ある存在が結集している。ブロードウェイで上演した「イン・ザ・ハイツ」や「ハミルトン」を手がけて絶賛された注目の作曲家、リン=マニュエル・ミランダが主題歌「どこまでも~HOW FAR I’LL GO~」をはじめ11曲を提供。加えてサモアのシンガー、オペタイア・フォアイと、ヒット・ミュージカル「ライオンキング」のマーク・マンシーナも参加して、スケールの大きな音楽世界を構築している。

 声の出演はオーディションで選ばれたハワイア出身の新星アウリィ・カルバーリョに、元プロレスラーにして俳優転進後も『スコーピオン・キング』や『ワイルド・スピード MEGA MAX』などで活躍をみせる、ザ・ロックことドウェイン・ジョンソン。ジョンソンの朗々たる歌声も魅力のひとつとなっている。日本語吹き替え版は新人の屋比久知奈がヒロインに抜擢され、歌舞伎の尾上松也、夏木マリ、ROLLYなど、ヴァラエティに富んダキャスティングだ。

 

 豊かな南の楽園モトゥヌイで暮らすモアナは、おばあちゃんの話す伝説に心をときめかしていた。

「命の女神テ・フィティの心を、半神半人のマウイが盗んで暗黒の闇が生まれた。世界を闇が覆いつくす前に、サンゴ礁を超えて旅する者がテ・フィティに心を返し、世界を救う」

 モアナは成長しても大海原に出たい気持ちは募るばかりだったが、父である村長はモアナが海に出ることを厳しく禁じていた。

 一度は海に出ることを諦めかけたモアナだったが、おばあちゃんは秘密の場所に案内する。そこには大海原を航海していた先祖を記した壁画と船があった。

 自分の心に従うことを決心したモアナはひとりで大海原に旅立つ。途中、島でマウイと出会ったモアナは「また英雄になれる」ということばでマウイを説得し、テ・フィティの心を探す旅に向かった――。

 

 途中で多くの危機に遭遇しながらも、モアナは自分の選んだ道を諦めようとはしない。自分の心の命じるまま“どこまでも”旅するモアナは『アナと雪の女王』に似て、現代の女性の思いを代弁している。親や社会の環境に縛られている女性がモアナのように、大海原のような無限の可能性のある世界に挑戦することを推奨しているのだ。ここでも自分の気持ちに正直にありのままに生きることが讃えられている。

 このストレートなメッセージを浸透させるために使われる曲がいずれも素晴らしい。このままステージでミュージカルとして上演しても立派に通用する。ディズニーのことだから、そのあたりも計算しているのだろう。数年後に劇団四季が上演していても不思議ではない。なかでも「どこまでも~HOW FAR I’LL GO~」はアカデミー歌曲賞にノミネートされたのも納得。力強く歌い上げるナンバーでありながら、親しみやすく耳に残る。「Let It Go~ありのままで~」と同じく、日本でもヒットするだろう。

 もちろん、映像の美しさはいうまでもない。なによりも海の広大さ、千変万化な波の表情を巧みに映像につくりこみ、モアナの冒険の大きなスケール感を生み出している。さすがベテランのマスカーとクレメンツ、きびきびした語り口のもとで胸が躍る冒険世界をくっきりと映像化している。

 

 声の出演者はいずれもみごとなパフォーマンスを見せているし、アニメーションだと敬遠しないで、まずは一見をお勧めしたい。