『ドクター・ストレンジ』はマーベル・コミックの異色ヒーローが活躍する、ヴィジュアルがすごいアクション大作!

『ドクター・ストレンジ』
1月27日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2017 Marvel. All Rights Reserved.
公式サイト:http://marvel.disney.co.jp/movie/dr-strange.html

 

 アメリカン・コミックの映画化で唸らされるのは、綴られる映像のヴィジュアル・インパクトもさることながら、なによりヒーロー、ヒロインを演じる俳優の趣向を凝らしたキャスティングにある。

 とりわけマーベル・コミックが送り出す『アベンジャーズ』をはじめとする“マーベル・シネマティック・ユニバース”では、アイアンマン役のロバート・ダウニーjr.やキャプテン・アメリカ役のクリス・エヴァンス、アントマンのポール・ラッドなどなど、意表を突いたキャスティングで勝負。それがことごとく成功しているのだから素晴らしい。起用された俳優たちはこれまで演じたことのないキャラクターを奥行きのある演技で表現し、全世界的人気を獲得している。

 この“マーベル・シネマティック・ユニバース”に新たなヒーローが加わった。かつて天才外科医だった魔術を操るヒーロー、ドクター・ストレンジである。傲慢にして憎めず、魔術を身につけることでミステリアスな雰囲気を湛えていくキャラクター。さぞかしキャスティングに難航したのかと思えば、すんなりとベネディクト・カンバーバッチに決まったのだという。

 カンバーバッチは名門の出で、演劇の経験を重ね、テレビシリーズ「SHERLOCK(シャーロック)」で日本でも爆発的人気となり、『裏切りのサーカス』や『それでも夜は明ける』など、話題作に次々と出演。人気シリーズ『スター・トレック イントゥ・ダークネス』では悪役を演じ、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』ではアカデミー賞主演男優賞にもノミネートされた。どんなキャラクターも表現しうる演技力と立ち姿の見事さ、印象的な容姿を誇るカンバーバッチが、このヒーロー役に起用されたのは当然ともいえる。彼のスケジュールに合わせて撮影、公開日まで調節したというのだから、製作陣がいかにカンバーバッチに惹かれていたかが伺える。

 カンバーバッチにふさわしい作品にするため、『プロメテウス』のジョン・スペイツ、『フッテージ』のC・ロバート・カーギルと、『地球が静止する日』の監督で注目されたスコット・デリクソンがストーリーを練りこみ、カーギルとデリクソンが脚本化。映画はデリクソンの監督で実現することになった。

 しかも、カンバーバッチに負けず劣らず、共演陣も実力派揃いだ。『それでも夜は明ける』に主演したキウェテル・イジョフォーに、『スポットライト 世紀のスクープ』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたレイチェル・マクアダムス。『フィクサー』でアカデミー助演女優賞に輝いたティルダ・スゥイントンに加えて、『偽りなき者』でカンヌ国際映画祭男優賞を獲得し、『007/カジノ・ロワイヤル』など国際的な活躍を見せるデンマークの星、マッツ・ミケルセンまで、カンバーバッチの個性、演技に互角に立ち向かえる俳優が選りすぐられている。

 

 ニューヨークの外科医、スティーヴン・ストレンジは天才の名をほしいままにしていた。スタイリッシュで知性と教養に溢れ、傲慢なのに憎めない。だが好事魔多し。我が世の春を謳歌する日々を送っていた彼に突然の悲劇が襲う。交通事故で手の機能を失ってしまったのだ。

 回復のための空しい努力が続いたが、事態は好転しなかった。ストレンジは藁にも縋る思いで、治療不能といわれたのに驚異的回復をとげた男のもとを訪ね、カトマンズにあるという謎の治療施設カマー・タージの存在を知る。

 苦労してカマー・タージを訪ねたストレンジは、そこが人知を超えた神秘の力を修行する場であることを知る。落胆した彼に、導師エンシェント・ワンは異次元世界を体験させる。

 未知なるものに対する畏敬の念にうたれたストレンジは修行を懇願し、魔術の修行に明け暮れるようになる。やがて魔術師としての力を獲得した彼は、禁じられた闇の魔術のパワーを得る儀式を知るとともに、カマー・タージが闇の魔術から人類を守るための砦で、3つの聖域――ロンドン、ニューヨーク、香港とつながっていることを知る。

 その時、闇の魔術に魅せられた魔術師カエシリウスが現れる。彼はカマー・タージで修業し、死をも超越する黒魔術に現実世界を捧げようとしていた。カエシリウスの攻撃にストレンジは危機に陥るが、伝説のマントが彼を守ってくれる。

伝説のマントに選ばれたストレンジはカエシリウスの野望を阻止できるのか――。

 

 手の機能を失った天才医が魔術を知ることでヒーローとなるまでのストーリー。医者としての倫理観で、敵を殺めることを許さないがゆえに、戦うことの葛藤を生むことになる。ストレンジの人間としてのリアルな心情がドラマにメリハリをつけている。さすがカンバーバッチ、さりげない演技でヒーローの思いを具現化している。

 デリクソンの演出はドラマ部分を要領よく綴りながら、圧倒的な映像で勝負してみせる。登場人物が異空間や時間を超えて行き来する趣向のもと、変幻自在な世界が映像化されている。ニューヨークの摩天楼がゆがみ、折りたたまれ、分割する。まさにマジックと呼ぶしかない映像体験である。『マトリックス リローデッド』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などで知られるステファン・セレッティが視覚効果監修を担当。特撮工房ILMがみごとな仕事を披露してくれる。

 スーパーヒーローが活動するアクション・エンターテインメントではあるが、パラレルワールドの観念を分かりやすく描き出すとともに、時間を超越した世界での死生観、ある種の諦観までも作品に織り込むなど、心に迫る部分も少なくない。おとな感覚のエンターテインメントなのだ。

 

 出演者ではベネディクト・カンバーバッチの持ち味が存分に引き出されている。傲慢でユーモアのセンスを失わず、基本的には生真面目なドクター・ストレンジを巧みに演じている。天才外科医として挫折し、魔術の修行とともに人間的な成長を遂げるキャラクターはカンバーバッチにとっては容易に表現できるもの。スタイルも含め、ほれぼれするような存在感である。

 共演陣も手堅い演技を見せる。生真面目な兄弟子役のキウェテル・イジョフォー、かつての恋人役のレイチェル・マクアダムスもいいが、なんといってもエンシェント・ワンに扮したティルダ・スゥイントンと、カエシリウス役のマッツ・ミケルセンの怪演が光る。こういう誇張した役をきっちり演じ切れる力に脱帽したくなる。

 

 マーベルのヒーローのなかでも異色の存在、ドクター・ストレンジの今後が楽しみである。まずは一見をお勧めしたい。