『マグニフィセント・セブン』は黒澤明、ジョン・スタージェスの名作の魂を継いだ痛快アクション!

『マグニフィセント・セブン』
1月27日(金)より、TOHOシネマズ日本橋、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://magnificent7.jp/

 

 昨年は『七人の侍』の4Kデジタルリマスター版が上映され、黒澤明のつくりだした世界の凄さを今さらながらに再認識させられた。全編207分、躍動感に溢れた映像、力強い語り口に酔いしれるばかり。アクションであり人間ドラマ、エンターテインメントのあらゆる要素が盛り込まれていた。

 野盗と化した野武士軍団に対抗すべく農民が武士を雇い、立ち向かわんとする展開のもと、前半はそれぞれに個性のある侍たちを集める高揚感いっぱいに描かれ、村に到着した侍たちと農民との軋轢のエピソードを交えつつ、後半は野盗軍団との壮絶にして迫力満点の合戦シーンが紡がれる。今、見てもいささかの古さも感じさせない。これが1954年(昭和29年)に製作されたということが驚きで、黒澤明の演出力、構成力に脱帽するばかりだ。

 この名作を1961年にハリウッドでリメイクしたのが『荒野の七人』ということになる。主演を務めたユル・ブリンナーが『七人の侍』をみて、ハリウッドでの映画化を進言したのが製作のきっかけというが、オリジナルを尊重したストーリー展開となっている。

 この作品ではメキシコの寒村が舞台。作物を奪う盗賊たちに立ち向かうため、村人がテキサスまで銃の調達に向かい、そこで知り合ったガンマン7人を雇うという展開。ここで注力されたのは7人のガンマンのキャラクター設定だった。

 おりしもテレビシリーズに出演した俳優たちが幅広く注目された時代。ウォルター・ミリッシュ率いる製作サイドは「拳銃無宿」のスティーヴ・マックィーンや「カメラマン・コバック」のチャールズ・ブロンソンをはじめ、ジェームズ・コバーン、ロバート・ヴォ―ンなど、売り出し中の強烈な個性の持ち主を起用する戦略をとった。こうしてユル・ブリンナーを頭に活きのいい顔ぶれが揃い、ジョン・スタージェスの骨太なアクション演出と相まって、作品はアメリカ映画史に残る作品となったのだ。

 黒澤明とジョン・スタージェスが生み出した2本の作品は、以後のアクション映画に大きな影響を与えたことは言うまでもない。それぞれに特技を誇る男たちが集められ、巨大な敵に立ち向かう展開はアクション映画の定番となった。

 

 そして『荒野の七人』製作から56年を経て、本作の登場となる。本作の邦題『マグニフィセント・セブン』は『荒野の七人』の原題。つまりは『七人の侍』のリメイク作品のリメイクということになる。

 もちろん、21世紀の映画ファンにアピールすべく、ストーリーを蘇らせるためにさまざまな趣向を凝らしている。『エクスペンダブルズ2』や『イコライザー』の脚本で知られるリチャード・ウェンクと、テレビシリーズ「TRUE DETECTIVE/二人の刑事」の企画・脚本のニック・ピゾラットがアイデアを練りこんで脚色。本筋は変えないものの、設定に現代にふさわしいテイストを加えてみせた。

 まず地道に日々を送る開拓民を迫害する敵は、野盗ではなく、金採掘のために開拓民の土地を力づくで奪う資本家に設定している。経済繁栄という大義のためには軍団を組織して、暴力を行使するという設定は、現在の世界を覆っている経済至上主義そのものともいえる。

 さらにヒーロー7人の設定も大きく変えられた。リーダー役のサム・チザムがアフリカ系アメリカ人であり、アジア系ひとり、先住民ひとり、そしてメキシコ系ひとりと、7人のうち4人が非白人となっている。さらにガンマンたちを勧誘し、雇うのは未亡人。開拓民を牽引し、立ち向かうのが女性という設定はなるほど現在にふさわしい。

 この脚本を得て、ダイナミズム溢れる演出を披露するのは、『トレーニング デイ』や『イコライザー』などで話題を集めたアントワーン・フークア。『七人の侍』と『荒野の七人』に多大な影響を受けたと語るフークアは、2本の作品が製作時の時代の息吹を感じさせることに着目。本作では21世紀の多民族国家の代表アメリカを反映した設定を踏まえ、見る者が共感するヒーローたちの闘いを豪快に描き出している。VFXに頼ることなく、リアルでパワフルなアクションを映像に焼きつけている。

 出演はリーダーのチザムにフークアとチームを組むことの多いデンゼル・ワシントン。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『ジュラシック・ワールド』でおなじみのクリス・プラット、『ブルーに生まれついて』のイーサン・ホーク、テレビシリーズ「LAW & ORDER クリミナル・インテント」のヴィンセント・ドノフリオ、韓国出身でハリウッドでも個性を発揮しているイ・ビョンホン、メキシコで人気のマヌエル・ガルシア=ルルフォ、アラスカ先住民の血が流れるマーティン・センズメアー。

 この7人に加えて紅一点、色香を添えるのが『ガール・オン・ザ・トレイン』の存在感が話題となったヘイリー・ベネット。敵役には『ブルージャスミン』をはじめ演技派性格俳優として脚光を浴びているピーター・サースガードが起用されている。

 

 1879年、開拓者によって築き上げられたアメリカ西部の小さな町ローズ・クリークは、近隣で採掘される金の拠点にしようとする権力者ボーグの進出によって危機に瀕した。暴力で土地を奪おうとするボーグは抵抗するものを次々と殺していった。

 夫を殺されたエマは町民からかき集めた全財産をもとに用心棒を雇おうとする。この話に乗ったのは賞金稼ぎのチザム。さらにギャンブラーのファラデー、メキシコ人の流れ者バスケス、スナイパーのグッドナイト、東洋人のナイフの使い手ビリー、インディアン・ハンターとして知られるホーンに、先住民の戦士レッドハーヴェストの7人。

 ローズ・クリークに着いた7人は、ボーグの息のかかった保安官を追い出し、殆ど軍隊の様相を呈したボーグ軍団に敢然と戦いを挑んでいった――。

 

 壮絶なガンプレイに拍手喝采し、クライマックスの戦闘スペクタクルには手に汗を握る。『荒野の七人』の華麗さに対して、こちらはさらにインパクトを強くしたアクションといえばいいか。フークアはスピーディな語り口のなかに、7人それぞれの葛藤を浮き彫りにしつつ、ヒロイズムを立ち上げる。それぞれのガンマンは決して正統的なヒーローではなく恵まれた存在ではないが、なにより弱きを助ける気質を持っている。いずれも独自の美学と流儀を持っていることが魅力だ。彼らの存在は、現代の格差社会に向かって投じられた、ヒロイズムの在り方の問いかけでもある。

 

 出演者はデンゼル・ワシントン、イーサン・ホークをはじめ、全員がキャラクターにふさわしい個性をにじませて、まことに好もしい。しかも未亡人エマに扮したヘイリー・ベネットの画面にグラマラスな色香を発散する。映像のなかに存在するだけでくっきりと際立つ。彼女は間違いなくアメリカ映画界の星だ。

 

 フークアのメリハリの利いた演出のもと、7人が集められるエピソードにワクワクさせられ、ハードボイルな彼らの生き様に拍手を送りたくなる。理屈抜きの痛快さで貫かれた作品である。