『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』はJ・K・ローリングが脚本を担当した、待望のファンタジー大作!

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
11月23日(水・祝日)より、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
Harry Potter and Fantastic Beasts Publishing Rights (C) JKR.
公式サイト:fantasticbeasts.jp

 

 日本でファンタジー映画の楽しさを広く知らしめたのは“ハリー・ポッター”シリーズだった。第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』が公開されたのが2001年12月のこと。年をまたいでヒットを続け、203億円の興行収入を上げた。奇しくも2002年の3月には『ロード・オブ・ザ・リング』が公開され、時ならぬファンタジー対決の様相を呈したが、勢いは衰えなかった。これまでファンタジーに興味のなかった層が大挙して劇場に押し寄せたからに他ならない。

 このヒットは、原作小説が世界的なベストセラーとなっていたことも大きく貢献している。作者、J・K・ローリングの豊かなイマジネーション世界を幅広い世代が熱狂的に支持し、新作の発売日には書店に客が殺到する騒ぎになるほどだった。原作は全7作、映画は最終作を2つに分けて、全8本のシリーズとして世界中を席巻した。

 シリーズは10年にわたって映画界を牽引するヒットを重ねた。ハリー・ポッターに抜擢されたダニエル・ラドクリフをはじめ、エマ・ワトソン、ルパート・グリントなどの子役たちの成長を目の当たりにできたことも話題となった。映画、原作小説が生み出した世界観、躍動感に溢れた魔術に慣れ親しんだファンは、シリーズの復活を強く望んだ。

 

 その熱望に応えて、原作者ローリングが初めて映画用に脚本を執筆したのが本作である。描かれるのはハリー・ポッターたちがホグワーツ魔法学校に入ったときから70年遡った、1920年代のニューヨーク。まったく時代が異なるものの、これまで“ハリー・ポッター”シリーズで培ってきた知識が随所で活かせる仕掛け。ここから新たなシリーズが船出となる。

 ローリングの脚本を得て、“ハリー・ポッター”シリーズの後半4作品をてがけた監督のデヴィッド・イェーツ、全作品の美術を担当したスチュアート・クレイグが招集された。ハリー・ポッター世界を熟知したスタッフが参加することで、いっそう興趣が盛り上がる仕掛けだ。ローリングは製作にも参画し、積極的に映画製作に踏み込んでいる。

 本作の発想は、ハリー・ポッターたちが学んだホグワーツ魔術学校の教科書「幻の動物とその生息地」からはじまった。著者の名は魔法動物学者、ニュート・スキャマンダー。ローリングは“ハリー・ポッター”シリーズを執筆している時点から、このキャラクターが忘れがたく、長年、構想を練りこんだのちに映画用の脚本に仕上げた。

 なにより今回の舞台は生き馬の目を抜く大都会ニューヨーク。人間たち(英国ではマグルだがアメリカではノー・マジと呼ばれている)が交錯する街角にアメリカ魔法省(MACUSA、マクーザ)があり、クライマックスには人間界を巻き込む一大スペクタクルに発展するなど、これまでにない映像世界をつくろうとの意気に溢れている。

 まして主人公スキャマンダーが茶目っ気のある、心優しき青年という設定も好感を呼ぶ。少年の成長を描いた前シリーズよりも、はるかに多様な展開が可能となる。しかも演じるのが『博士と彼女のセオリー』でアカデミー主演男優賞に輝き、続く『リリーのすべて』でも同賞にノミネートされたエディ・レッドメインなのだから素晴らしい。現在、もっとも注目されている英国男優が弾けたヒーローを爽やかに演じているのだから応えられない。これまでは一筋縄でいかないキャラクターを演じてきたレッドメインの演技力は折り紙付き。初めてのヒーローらしいキャラクターを魅力的に演じ切っている。

 共演は『スティーブ・ジョブス』のキャサリン・ウォーターストーンに、『ウッドストックがやってくる!』のダン・フォグラー、シンガーソングライターとして知られるアリソン・スドル。さらに『バットマンvsスーパマン ジャスティスの誕生』にフラッシュ役で登場したエズラ・ミラー、『ギター弾きの恋』のサマンサ・モートン、『トータル・リコール』のコリン・ファレル、加えて名優ジョン・ヴォイトまで顔を出す。まことに充実したキャスティングである。

 

 1920年代、ニューヨークの港にニュート・スキャマンダーが降り立った。

 手にした古ぼけたトランクには魔法動物(ビースト)たちが隠されていたが、雑踏に紛れて、人間のジェイコブ・コワルスキーのトランクと取り違えたうえに、魔法動物の何匹かが大都会に放たれてしまう。

 スキャマンダーは魔法動物を捉えるために、コワルスキーの前で魔法を使うことになる。それを見とがめたアメリカ魔法省(MACUSA)に所属する魔法使い、ティナ・ゴールドスタインに連行されるが、長官のパーシブル・グレイブスは彼女を相手にしなかった。

 仕方なくゴールドスタインは同じく魔法使いの妹クイニーと住むアパートにスキャマンダーとコワルスキーを連れていくことになる。

 その間にもニューヨークには超自然的な破壊が起きていた。これは魔法動物の仕業なのか。スキャマンダーはゴールドスタイン姉妹、コワルスキーの助けを借りながら、魔法動物を捉えていくが、事態は人間が惨殺される事件に発展する。

 アメリカ魔法省から追われるスキャマンダーたちは、やがて事件の背後に秘められた悲しい事実を知り、魔法界の壊滅を図る組織の存在によって窮地に陥ることになる――。

 

 詳細は興を殺ぐので明らかにできないが、全編、練りこんだユーモアと見せ場に彩られ、冒頭から惹きこまれる。全編、胸も弾む楽しさといえばいいか。冒険、アクション、笑い、スペクタクル。さらにはラブストーリー的な趣向まで織り込まれ、ひと時も興味をそらさない。まさにエンターテインメントの鑑といいたくなる。キュートでいたずら好きな魔法動物たちの暴れぶりに目を丸くし、起きる騒動の大きさに驚く間もなく、グイグイとストーリーが進行する。まさに疾走するがごとき語り口を、デヴィッド・イェーツは貫く。

 あくまで魔法動物は殺めることなく、自由に生きられる場所を提供するというスキャマンダーの心優しさがストーリーの進行とともに明らかになり、彼がホグワーツ魔法学校の出身であり、学生時代はダンブルドアに目をかけられていたことも語られる。ハリー・ポッターの大いなる先輩であるわけだ。このように“ハリー・ポッター”シリーズの知識が随所に散りばめられることでも、ファンは応えられないはずだ。

 コミカルな部分は主に人間のコワルスキーとスキャマンダーが担当し、コワルスキーは魔法使いとのはかない恋も経験する。さらにスキャマンダーにも恋の予感を暗示するかのような幕切れもいい。

 

 俳優たちの演技も見逃せない。スキャマンダー役のレッドメインはどこか中性的な香りを湛えつつ、従来の価値観に縛られない自由なヒーローをさらりと表現している。本作はいわば紹介編、今後、どんなキャラクターに育っていくのか興味津々である。

 ティナ・ゴールドスタインを演じるキャサリン・ウォーターストーンは生真面目なキャラクターをさらりと演じ、妹役のアリソン・スドルはちょいと脱力系のセクシーなキャラクターを好もしく演じている。だが、今回の当たりはコワルスキー役のダン・フォグラーだろう。どこといって目立たない中年の小太り男が図らずも生死を賭けた冒険を繰り広げ、友情と恋に熱い涙を流す。フォグラーにとってはこの上ない儲け役である。

 

 アメリカでは大ヒットを記録し、いよいよ日本に上陸する。幅広い世代が堪能できる冒険ファンタジー。正月までひた走るのは確実だ。