『デッドプール』はマーベル・コミックの異色ヒーローが暴れまわる痛快アクション!

『デッドプール』
6月1日(水)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
©2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/deadpool/

 

 積極的な映像戦略によって、現在、数多くのマーベル・コミックのヒーローたちがスクリーンを賑わし、ヒットチャートを競っている。正当的なヒーローから神様戦士、ミュータントまで、個性もさまざまだが、ここに異色のヒーローが登場する。

 不死身の肉体をもちながら、正義感はゼロ。悪態、毒舌をマシンガンのように速射しながら、2本の刀で敵を倒す。おしゃべりで、悪ガキみたいな態度で周囲を煙に巻く、やること、なすこと、この上なく規格外のヒーローなのだ。

 コミカルで痛快、その型破りな暴れっぷりが話題を呼び、本作はアメリカ公開時には3週連続興行収入ナンバーワンを記録するなど、予想もしなかった大ヒット。全世界120カ国でもナンバーワンを飾った。どこまでも過激ながら、心の奥底には人間味がたぎっているキャラクターは魅力的で、なるほどヒットの理由も分かる。

 コミックに登場したのは1991年で、映像化がファンから叫ばれていたというが、このキャラクターはまず『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』で仇役として登場した。演じたのはライアン・レイノルズ。日本では『あなたは私の婿になる』や『デンジャラス・ラン』、『黄金のアデーレ 名画の帰還』などで知られているが、アメリカでは1998年から2001年にかけて放映されたテレビシリーズ「ふたりの男とひとりの女」で人気者となり、コメディからシリアス、アクションもこなせる存在として認知される。余談ながら、2010年にはピープル誌の“最もセクシーな男性”にも選ばれている。私生活ではシンガーのアラニス・モリセットと婚約するも解消、続いてスカーレット・ヨハンソンと2008年に結婚するも離婚。現在はテレビシリーズ「ゴシップガール」で注目されたブレイク・ライヴリーと結婚生活を営んでいる。

 レイノルズは早くから原作コミックを全巻、愛読するほどデッドプールというキャラクターに入れ込んでいたが、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』では原作のイメージとは大きく異なって、その持ち味を披露することはできなかった。レイノルズはひたすら機会を待ち、本作でその願いを叶えた次第。そのために本作のプロデューサーに名を連ねているばかりか、『ゾンビランド』で知られるポール・ワーニック、レット・リースとともに、脚色にも尽力。デッドプールに精通した存在として、軽口やセリフにも意見を押し通した。 その成果が大ヒットに結びついたわけで、軽妙にしてペーソスも漂うレイノルズの演技に対しても称賛の声が上がっている。

 共演はテレビシリーズ「HOMELAND/ホームランド」でエミー賞にノミネートされたモリーナ・バッカリン。仇役には『トランスポーター イグニッション』で主演したエド・スクライン。さらに女子格闘技の第一人者にして『エージェント・マロリー』では主役を演じたジーナ・カラーノも顔を出すなど、心憎いキャスティングが組まれている。

 監督は本作が劇場用映画デビューとなるティム・ミラー。CG、VFX分野で経験を積み、CMや『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』のVFXクリエイティヴ・スーパーバイザーなどを経験して、本作に挑んだ。なによりもスピーディな語り口を貫き、デッドプールの軽妙さで、一気呵成にストーリーを貫いていく。アクの強さ、過激描写もふんだんに、とにかく面白くつくろうとの意気に溢れた仕上がりである。

 

 赤いコスチュームに身を包んだ男、デッドプールが目的地に急いでいた。タクシーの運転手に減らず口を叩きながら、宿敵の車列が走るハイウエイに向かっていた。

 2年前、ウェイド・ウィルソンは特殊部隊の傭兵を引退して、ワルを懲らしめて金にする、気ままな日々を送っていた。

 そんな彼が一夜の相手に選んだ娼婦ヴァネッサとの相性があまりによくて、一年後に結婚を決意するが、好事魔多し、ウェイドは全身にガンが転移し、余命わずかと宣告される。落ち込む彼に、末期ガンが治せると声をかける男がいた。ウェイドはわらにもすがる気持ちで人体実験に参加したが、施設を仕切る男エイジャックスに肉体を改造される。拷問のような実験が繰り返され、顔を含めて全身が焼けただれたウェイドは、どんな攻撃受けても回復する肉体を得ていた。被験者を戦闘マシンに仕上げて売る施設であることを知ったウェイドは逃亡。

 醜い肉体を隠すために赤いコスチュームに身を包んだウェイドは自らをデッドプールと名乗り、元の肉体に戻してもらうため、エイジャックスを追いかける。だが、逆にヴァネッサを拉致されてしまった。デッドプールを追う別のグループもいるなか、彼はヴァネッサを救うことができるだろうか――。

 

 いやいや、減らず口をたたき、スクリーンから話しかけてくるデッドプールは、ワルぶってはいるが、実は一途な純愛の人。この弾けたアクションも実は純愛ストーリーだと分かるとちょいと嬉しくなる。まこと憎めないキャラクターは演じるレイノルズのイメージそのままで、なんとも魅力的なのだ。

 エイジャックス役のスクライン、カラーノと、仇役に勢いがあるのも本作をヴィヴィッドにしている要素だ。お茶らけたデッドプールに凄味で対抗する。彼らが放つ迫力があるからアクションとしての面白みも維持されている仕掛け。ミラーの演出はとことんのインパクト主義で疾走するので、最後まで飽きさせない。

 なによりもデッドプールの発する小ネタ、引用、オマージュの数々に拍手である。世界観が同じ『X-MEN』シリーズはもちろんのこと、『127時間』や『96時間』、『アメリカン・ビューティ』などの映画ネタ、果てはモンティ・パイソン軍団の持ちネタ、ワム!のヒット曲「ケアレス・ウィスパー」までニヤリとさせるギャグに仕立ててみせる。このオフビートでありながら真っ当な、ユーモアのセンスが大ヒットの所以だろう。

 

 出演者では圧倒的にレイノルズの個性が映画を引っ張っている。とぼけた顔をしてユーモアをかまし、シリアスとギャグが表裏となった演技が絶品。純愛ヒーローをここまでおかしく、哀しく演じられる。間違いなく、デッドプールは彼のあたり役である。

 

 本作の超ヒットによって続編の製作が決定した。レイノルズ、ミラーのコンビで次はどんな弾けた世界を披露してくれるか、楽しみでならない。これぞ絶対に見て損のない作品である。